なぜ「利益を無視する」と宣言したのか
派手に大型買収をしたけれど、結果は、損切り。トータルで5000億円もつっこんで、みな損切り。当然、批判・罵倒の嵐です。カッコ悪いなんてものではありません。僕自身、ひどく自信を喪失しました。
周りからボロクソに言われて反省もしていたのですが、僕は決して暗い気分ではありませんでした。売却して得たお金のほとんど全部をインターネット一点に集中してつぎ込むことができたからです。
ヤフーへの出資、ヤフージャパンの立ち上げ、そして、来る本格的なネット社会で必要な電子商取引の技術を開発する会社や、中国でインターネット事業を展開するベンチャーなどへも積極的に資本参加しました。
しかも上場してそれほど年数がたっていないのに、この頃、僕は畏れ多くもこう公言しました。
「これから先の10年間、私たちは利益を無視します」
株主総会の場でも、決算発表の場でも、これから先の10年間は、「ソフトバンクに利益を期待しないでください」と発言したわけです。
自業自得ですが、株価は真っ逆さまです。
「こいつはなんちゅうやつだ!」
上場して投資家の皆さんのお金を集めるだけ集め、銀行からも多額の借金をし、それを元手に合計5000億円ぐらい立て続けに投資をした。それを全部売却して損した揚げ句、今度はインターネットに資金を投じるから「期待するな」と。
まあ、よくも言えたものです(笑)。あまり大きな声では言えませんが、当時のインターネット事業など売り上げはほとんどなく、赤字といっていいわけですから。
ほとんど利益の出ていないインターネットの分野に狂ったように投資するのを見て、株価は暴落しましたが、それでも僕には確信がありました。
インターネットというインフラが今後世界中に広がっていけば、ネットワークにつながった人々は無限に新たな知識やコンテンツを自由に見ることができる。それを使うことで人々はハッピーになれるはずだと。
それから5年たった頃、例のインターネットバブルで、ソフトバンクの株価はかつて暴落したぶんをはるかに上回るほど、瞬く間に急上昇していきました。
とはいえ、その高値は長く続きはしなかったので、僕が大型買収後の危機的状況の中で、持っていた会社を売却したのが正しかったかどうかは、どの部分を評価するかによって変化することになるでしょう。