資金がつきるプレッシャーの中で力を発揮できるのがベンチャー

その時に描いた選択肢は2つ。眼科領域だけではなく、脳や肝臓、血管細胞などいろんな細胞にスクリーニングを広げていくことで、スクリーニングの会社として成長を目指すのが一つ。もう一つは眼科領域をどんどん深堀して自社で化合物を探索し、医薬品という最終プロダクトにするという垂直統合型のビジネスに転換する選択肢です。

水平に行くか垂直に行くか。「世界を失明から救いたい」という自分の原点に立ち返り、私は後者というリスクの高い経営判断を下しました。受託型創薬支援から自社で垂直統合型の薬剤開発にビジネスモデルを切り替えたのです。

創薬支援ビジネスで日銭を稼ぐほうが、急成長はしなくても次は心臓、次は肝臓というように手堅くビジネスの拡大は出来たかもしれない。一方の創薬モデルは、薬ができるまでは直接的な収入がないため、大手製薬企業とのアライアンスや増資によって外部からの資金調達をし続けなければなりません。

その決断をした時に社員の半分がやめました。創薬支援のビジネスモデルは安定しているという判断から入社した者もいたからでしょうが、ベンチャー企業に来る人はリスクに対する許容度が大きいのにも関わらず、半数もやめたのはあまりにもリスクが高いと判断されたからでしょう。製薬業界の人であれば、限られた予算と2年間という期間で新規化合物を見つけ出すことがどれだけ困難であるかがなおさらわかる。新薬が見つかるかどうかは保障がないし、当然ながら私にはかつて新薬となる化合物を見つけたという実績があるわけでもありませんでした。

それでも半数の仲間が私を信じてついてきてくれました。半数の仲間が去ったことは残念なことですが、半数の仲間が残ったことは本当にありがたかった。まさにコップの中に水が半分しかないとネガティブに考えるか、半分もあるとポジティブに捉えるかですが、私は後者で半数が残ってくれたことを本当にありがたいと感謝しました。天性の楽天家なのです。これは後に起業家が持つべき重要な資質の一つだということを知りました。当時の資金は2年で底をつくことがわかっていたので、まさにぎりぎりの勝負。そして挑戦した結果、本当に2年間で化合物を見つけることができて、臨床試験を開始することができたのです。