しかし、そこでも化学変化は起きていて、大陸との融和の方向性について、民進党も否定していない。実際、民進党の次期総統候補と言われる蔡英文(前民進党主席)は、大陸に渡って中国政府の要人と会うなど歓待を受けている。
むしろ現在は与党国民党の馬英九総統のほうが中国との距離感に苦慮している観がある。
本省人がマジョリティーの台湾にあって、外省人の馬総統は政治的なハンデを負っている。中国との融和を急ぎすぎるとさらに世論の反発を招き、すでに10%を切っている政権支持率をさらに落としかねない。馬総統はそれがよくわかっているから、「今の台湾と中国の関係を変えることは絶対にしない」と繰り返し公言しているのだ。
しかしながら、台湾の経済、国民生活のメリットを考えると大陸との融和は必須。友好関係を保って無駄に高い軍事費を削って民政を充実させたほうがいいし、台湾の会社もどんどん大陸に進出して勝負したほうが得策だ――。このように考えた馬総統は08年の政権発足直後から大陸と対話を重ねて、かねてから中国側が提案していた「三通」(直接の通商、通航、通郵)を実現化する方向に動いた。
さらに中台の経済連携の強化を目指して10年に締結し、発効したのが「両岸経済枠組協議(略称ECFA)」だ。いわば中台間の包括的な自由貿易協定で、貿易品目別に段階的に障壁をなくしていこうというもの。
冒頭の国会占拠事件の直接の引き金になった「サービス貿易協定」は、ECFAの具体化協議の一つだ。商業、通信、建築、環境、旅行、金融などのサービス分野でさらに市場開放を進めて、相互参入を容易にする狙いだが、「不平等な協定だ」「大陸から労働者が大量に流れ込んできたら仕事や雇用が奪われる」と野党や学生が反発。それを押し切って与党がサービス貿易協定の承認を強行採決したことから、今回の騒動に発展したのだ。