権限委譲は迅速&効率的な対処を可能にする

ホルスト・シュルツ氏

シュルツさんのホテルでは、責任不在の言葉を聞くことはまずありません。お客様から苦情を受けたスタッフが、その責任を負い、主体的に問題解決に取り組んでいます。

シュルツさんのこの考えは、カペラ・ホテル・グループ(創業時の社名はウエストペース・ホテル・グループ)を創業する前からのものです。リッツ・カールトンの社長をつとめていたとき、すべてのスタッフが自己裁量で、1日2000ドルまで自由に会社のお金を使えるという「エンパワーメント」制度がリッツ・カールトンに導入されました。ホテルに問題が発生した際、マネジャーに確認することなくスタッフが迅速かつ効果的に対応を行えるようにする、というねらいがあってのことです。

このシステムを取り入れると話した当初、シュルツさんは世界中のリッツ・カールトンのオーナーから「うちのホテルを潰す気か!」と猛反対に遭いました。たしかに毎日3人のスタッフが2000ドルのエンパワーメントを行使したとしたら、1カ月でホテルは18万ドルもの出費となってしまいます。

けれどもオーナーたちが憂慮した事態は起こりませんでした。権限を委譲されたスタッフは、誇りを持って問題解決に主体的に取り組むようになり、ほとんどの場合、迅速に機知を持って対応すれば、お金を掛けなくてもお客様の信頼を取り戻すことができたからです。

エンパワーメントの導入により、スタッフは問題を未然に防ぎ、お客様の滞在をよりよいものにするために先回りして考え行動するようになりました。その結果、クレームが減ったうえにリッツ・カールトンの比類なきサービスの評判が世界に広まり、お客様は増え、売上増につながったのです。