業績悪化の裏に「内なる敵」の存在

08年9月にリーマンショックがあったとはいえ、トヨタの業績悪化の本質的な理由は「内なる敵」に敗れてしまったことにある。単に「リーマンショックの影響」と一言では片づけられない。社内で無防備な収益追求主義が第一となり、儲けは顧客に商品やサービスが評価された後からついてくるという発想に欠け、安くて良い商品をいかにつくるか、あるいは商品づくりの前にいかに人材育成に取り組むかといった、トヨタが最も大事にしてきたことが失われ始めていたのである。

その象徴的な事例をいくつか挙げると次のようなことがある。米国で売れば儲かったから米国仕様でほとんどの車を設計したため、「カローラ」などトヨタを代表する大衆車の大型化・高級化が進んだ。この結果、「カローラ」は米国以外ではあまり売れなくなった。この大型・高級化路線を象徴するのが、米国専用モデルの大型ピックアップトラック「タンドラ」だ。この「タンドラ」を、巨額投資で新設した米テキサス工場で製造し始めた。トヨタは売れ行きに変動があっても生産ラインの稼働率が極力変わらないように一つのラインで複数の車を生産する「混流生産」を得意としてきたが、テキサス工場は「タンドラ」の専用工場として建設された。これまでのトヨタの中では異例中の異例の工場だった。

大型ピックアップトラックを専用工場で大量生産することで利益を増やしたものの、大きなリスクも孕んでいた。リーマンショックで「タンドラ」の販売が落ち込み出すと、稼働率が一気に落ちて揚げ句には3カ月近い全面操業停止に追い込まれた。自動車産業は多くの社員を抱えて設備も高額・巨大で固定費が高い産業であるため、操業率が落ちると、動かない設備はキャッシュを生まず、しかも働かない社員に給料を払うことにもなり、一瞬にして赤字に転落する。トヨタも例外ではなかった。