さて、相関行列(数値の絶対値が1に近いほど関係が強い)を見ると、朝食率xと出社時間yとはほとんど関係がないといっていいでしょう。一方、朝食率x、出社時間yはすでに見てきたとおり、営業成績zと関係ありそうでなさそうです。
そこでAさんは、はたとひらめきました。
「もしかしたら、朝食を食べたかどうかではなく、時間の使い方の問題なのではないか?」
自分自身は、朝食をとりながら業界紙を読み、その日に訪問する取引先や競合企業の情報をチェックしている。朝食をとらずに誰よりも早く出社しているBさんも、きっと営業関連情報の収集やその日の行動をシミュレーションしているのではないか。早速、AさんはBさんに尋ねたところ、やはりそうでした。
同様に出社時間がやや遅いCさんも、朝食をとる日もそうでない日も業界紙のチェックだけは行っています。Dさんは朝食を毎日食べていますが、彼は起床後まずネットで業界の動きを確認し、それから朝食を楽しむとのことです。
「そうか、要するに、早く出社しようがギリギリであろうと、朝食を食べようが食べまいが、やるべきことをやっている者が予算を達成するんだ!」
Aさんは早速、近藤部長に分析の結果を報告しました。
近藤部長のよいところは、自分の考えにやみくもに固執することなく、部下の意見にも広く耳を傾け、合理的な提案であればただちに採用する点です。今回もAさんの進言を受け入れ、早速部下に大号令を発しました。
「就業時間前に業界の最新動向をチェックしろ! 元気が出るから朝食は必ず食べてこい!」
さて、すでにお気づきと思いますが、統計的なアプローチといっても特別なものではありません。ふだんの生活のなかで私たちが物事を見て、感じて、理解して、判断していくプロセスのほんの一部を科学的に再現しているにすぎません。
最後に、みなさんへのアドバイスをひとつ。数字が並んだら、とにかくまず表をつくり、合計を計算し、平均値を算出するくせをつけてください。これが統計的な思考プロセスを手に入れるための第一歩です。