144試合行って、得失点差が100点あれば優勝できる

三木谷さんからは、「優勝」と「黒字化」という目標を授けられました。まわりには「楽天は弱い。優勝なんて無理」という人もいました。ただ、私はけっして無理難題だとはとらえていませんでした。もちろん優勝へのハードルが高いことはわかっています。でも、ビジネスでは競合が無数にいるのに対して、プロ野球はライバルがリーグに5社と考えたのです。ビジネスで新しい事業を興して成功するより、プロ野球で優勝することのほうが、まだ確率は高いだろうと。

――弱小チームが優勝するためには、いったい何が必要なのか。野球経験のない立花氏が目をつけたのは、データによるチーム分析だった。

データの分析は、みなさんが同じ立場になってもやると思います。分析といっても、球団社長が「あの試合の、この1球がカーブかストレートか」と議論に口を出すべきではない。野球は、総得点と総失点のスポーツです。144試合行って、得失点差が100点あれば優勝できるといわれています。だから総得点と総失点を設定して、どうすればそれを達成できるかを数値化して、あとはそれに必要な戦力を整える。そういうシンプルな分析ですね。

データを使った分析は、うちだけではなく他球団もやっているでしょう。ただ、持っている情報がデシジョンメーカーにきちんと伝わっているかどうかが重要で、それをフロントと現場の監督で共有して、「そうか、これでいこう」というコミュニケーションが取れていないと、宝の持ち腐れになる可能性があります。

その点、星野監督とはいい関係をつくれています。たとえば「外国人選手を何人入れますか」というと、普通の監督は「野手3人、投手3人」と答えて終わりでしょう。でも、それだと投手、野手1人ずつファーム(二軍)にいないといけません。星野監督は経営者的視点をお持ちだから、外国人選手を選ぶときにも「ファームに行っても耐えられる人間なのか」と気にしてくれますし、「この選手、高いんですよ」というと、「じゃあ無理することないよ」といってくれる。監督とそうした関係ができているから、データ分析による編成がより活きたと思っています。

東北楽天ゴールデンイーグルス社長 立花陽三
1971年、東京都生まれ。私立成蹊高校卒。94年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券、ゴールドマン・サックス証券を経て、メリルリンチ日本証券に入社し、11年同社の執行役員に就任。12年8月から現職。小学生から始めたラグビーで、99年、母校、慶應義塾大学ラグビー部のコーチに就任し、優勝に貢献した経験も持つ。
(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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