資生堂の行動指標は26の言語で展開中
「ものづくり大国」の地位を中国や韓国などアジアの新興国に奪われつつある日本。電機メーカーをはじめ、日本経済の根幹を担ってきた企業の業績も芳しくない。だが日本には、依然として他国に圧倒的な優位性を持つ「商品」がある。それこそが日本文化に根づくホスピタリティ(=おもてなしの精神)だ。
私が2009年より会長を務める日本ホスピタリティ・マネジメント学会では、国内外の企業や団体を対象に研究を行っている。日本の就労人口の7割がサービス業に従事する現在、ホスピタリティは飲食業などの接客業にとどまらず、あらゆる業界で競争力に直結する。また海外においても、日本流のホスピタリティが売り上げと企業ブランドの向上に資することが証明されつつある。
化粧品メーカーの資生堂は46年前に初めて海外進出し、現在では中国、香港、シンガポール、タイなどでトップブランドの地位を確立している。それに貢献したのが「OMOTENASHI」教育だ。資生堂の店頭スタッフは単に局部的に肌を美しくすることに留まらず、お客さまが真に美しい健康体になるようにアドバイスを行う。顧客との信頼関係を重視する販売手法はリピーターを生み出し、ファンとなった人々が新規顧客を連れてくるという好循環を生んだ。スタッフの行動指標である「おもてなしクレド」は26の言語に翻訳され、世界展開する同社の質の高いカウンセリングの根幹となっている。
おもてなしの心に基づく営業は、これまでホスピタリティがあまり重要視されてこなかった業界でも効果を上げている。あるガス会社では、家庭用LPガスを設置する男性スタッフにマナー教育を実施。結果、家庭の台所で応対する主婦層に「礼儀正しい」と好感をもって迎えられるようになり、ガス器具など付随する商品の販売額を大幅に伸ばした。同様のマナー教育は大手宅配事業者でも行われており、ドライバーの応対の好感度が、ライバル企業に差をつけるポイントになっている。