世界の海軍が抱える「人が足りない」
しかし、佐々木海将補は「請け負ったからには勝つつもりだった」と情報収集を続けた。根底にあったのは、オーストラリアのニーズを満たせば移転実績のない日本でも戦えるという思いだ。
プロジェクトチームはネットワークを駆使してオーストラリア側のニーズを探り、新型FFMを建造する三菱重工業に伝えて対策を練り上げていった。その結果、下馬評を見事に覆し、2025年8月には新型FFMの採用がオーストラリア政府から発表されたのだ。
オーストラリアのニーズを満たす新型FFMの特徴とは何だったのか。まず注目したいのは「省人化」だ。佐々木海将補は、「省人化は世界の海軍共通の悩み」と明かす。
「先進国の軍隊はどこも隊員のリクルートに苦労していて、オーストラリア海軍にとっても省人化はマストでした。他の候補国のフリゲートの乗員は約100人以上ですが、新型FFMの乗員は約90人。ワッチ(当直)は30人体制なので、3交代で90人いれば運用可能です。これは従来の護衛艦の約半分。少ない乗員で運航できる点が、オーストラリア海軍の方向性とマッチしたのではないかと思います」
米防衛調査会社フォーキャスト・インターナショナルの比較では、競合各艦の乗員は韓国の忠南級が約120人、大邱級が約140人、スペインのAlfa 3000が約100人、ドイツのMEKO A-210が約120人とされる。いずれも新型FFMの約90人を上回っており、その省人化ぶりが際立つ。
日本の護衛艦が搭載する世界初の機能
新型FFMが省人化を極めたのは、海上自衛隊も乗員不足に悩んでいたからだ。稼働できる艦艇が少なくなって船繰りが悪くなると、現場の負担は重くなる。護衛艦「あまぎり」の艦長を務めていたこともある佐々木海将補は「365日のうち約200日は出航していて、乗員には本当に苦労をかけた」と当時を振り返る。乗員が休みを取りにくい状況を改善するため、新型FFMは省人化設計に振り切ったのだ。
省人化の方向性は二つある。一つは、一人で何役もこなせるようにシステムで対応すること。もう一つは、そもそも仕事を減らすことだ。
たとえば従来の護衛艦は係留中の横揺れを防ぐ双錨泊やリダンダンシー(冗長性)のために艦艇前部に錨を二つ、後部に副錨を一つ備えていた。新型FFMを前部錨一つ、副錨を廃止して簡易な設計にして、錨用具の整備等の作業負担を減らした。また、航行を指揮する艦橋は通常8人の配置だが、新型FFMは4人で運用できるようにしている。
注目は統合化されたCIC(戦闘指揮所)だ。まず艦橋は視界確保のため大きな窓を持ち、戦闘時に狙われやすい。実際、2001年には海上保安庁の巡視船「あまみ」が不審船から銃撃を受け、乗員が負傷する事件も起きている。
新型FFMは、被弾に備えて船体内部に置かれたCICにも操艦機能がある。360度の映像を見ながら操艦が可能で、艦橋の人員が退避して艦橋が無人になっても航行できる。またそれまで機関をコントロールする操縦室など複数に分かれていた区画(部屋)をCICに統合化することによって有人区画を減らし、無人区画を増やすことによってできる限り多くの自動消火システムを採用した。
「消火作業は人手が必要で、危険も伴います。しかしそもそも人がいなければ、火災発生の区画を閉め切って酸素をなくして消火できる。そこまで徹底した自動消火システムを採用した護衛艦は、新型FFMが世界で初めてです」

