仕事を効率化しても慌ただしい理由

私たちは常に時間に追われています。仕事でもプライベートでも予定を詰め込み、毎日が慌ただしく過ぎ去って、ハッと気づいたときには50歳や60歳になっていた。これは多かれ少なかれ、現代人に共通する時間の感覚ではないでしょうか。

かくいう私も普段は分刻みでスケジュールを組み、大学の講義に、テレビ収録に、地方での講演に、とあちこちを飛び回っているので、人ごとではありません。

「時間がない」が口ぐせになってしまった現代人に、「そもそも時間とは何か」という根源的な問いを投げかけたのが、ドイツの作家ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』です。児童文学でありながら、大人の愛読者も多い作品として知られます。

本作のテーマを象徴するのが、「灰色の男たち」の存在です。彼らは町の人々に時間の節約を呼びかけ、余った時間を「時間貯蓄銀行」の口座に預けるよう勧めます。男たちの目的は、人々の時間を奪うこと。つまり彼らの正体は「時間どろぼう」だったのです。男たちの言葉巧みな勧誘により、人々は1分1秒を無駄なく使わなくてはと考え、せわしなく時間に追われるようになります。

「時間は貴重だ――むだにするな!」
「時は金なり――節約せよ!」

あらゆる職場にこんな標語が掲げられ、誰もが時間の節約から逃れられなくなりました。

「だいじなことはただひとつ、できるだけ短時間に、できるだけたくさんの仕事をすることです」

これが時間を奪われた人間にとって、唯一の生きる目的になってしまったのです。

恐ろしいのは、この状況が今の現実社会と重なることです。特に生成AIが登場して以降、一人の人間がより多くの仕事を、より効率的にこなすことが求められるようになり、人々が時間に追われる感覚はますます強まっています。

もちろん時間を効率的に使うのが悪いわけではありません。

(構成=塚田有香 撮影=川しまゆうこ イラストレーション=米山夏子)

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