欲しい力は経験から身につけよう

自分には足りないものがある。だからなんとかして手に入れたい。そんなふうに思ったことは誰にでもあるでしょう。ビジネスパーソンであれば、「コミュニケーション力が低い」「リーダーシップに欠けている」「メンタルが弱く小さな失敗で落ち込みやすい」など、仕事を通じて自分の弱みを自覚する機会が少なくないはずです。では、自分に足りないものに気づいたら、どうすればいいか。この悩みに向き合ううえで参考になるのが、ライマン・フランク・ボームによる名作『オズの魔法使い』です。

1900年に発表され、米国初のファンタジーとして高く評価される本作は、ひと言でまとめると「仲間と共に旅する中で、自分に足りないものを得る物語」です。児童文学に分類される作品ですが、大人が読んでもさまざまな示し唆さを得られます。

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原作を読んだことはなくても、ジュディ・ガーランド主演の映画を観てストーリーを知っている人も多いでしょう。カンザスで暮らしていた少女ドロシーは、竜巻に飛ばされて魔法の国にやって来ます。自分が家に帰るには、偉大なる魔法使いオズの力を借りる必要があると知ったドロシーは、オズがいるというエメラルドの都を目指して旅に出ます。つまり彼女にとって足りないものは「故郷カンザス」であるという設定です。

さらにはドロシーが道中で出会う仲間たちも、それぞれに足りないものを抱えています。かかしは「脳みそ」、ブリキの木こりは「心(ハート)」、ライオンは「勇気」がなく、それらを手に入れるためにドロシーのお供に加わります。

一行はいくつかの冒険をしながら、目指すエメラルドの都に辿たどり着きます。しかしようやく対面したオズは、ドロシーたちの願いを叶えてほしければ、邪悪な西の魔女を退治しろと条件を出します。

一行は力を合わせてこの難しいミッションをクリアし、約束を果たしてもらおうと、再びオズのもとを訪れます。ところがなんとオズの正体は、偉大な魔法使いなどではなく、小柄で年老いたごく普通の人間でした。彼はトリックを使い、自分を恐ろしい大王に見せかけていただけのペテン師だったのです。もちろんドロシーたちの望みを叶える魔力も持っていません。

しかし、このペテン師がなかなかいいことを言います。「あんたにはぼくに脳みそをくれる力がないってことかい?」と落胆するかかしには、こんな言葉をかけます。「きみにはそんなものは必要ないさ。毎日毎日、いろんなことを学んでるんだから。(中略)知識は経験によってのみ得られるものなんだ」

さらに「おれの勇気はどうなるんだ?」と不安そうなライオンにはこう答えます。

「きみにはもう、たっぷり勇気があるじゃないか」

続けて「ほんとうの勇気というのは、こわいと思っても危険に立ち向かうことだよ。きみはそういう勇気をたくさん持ってる」と語りかけます。つまりオズは、旅の経験を通して、すでに君たちは欲しかったものを手に入れているじゃないかと言っているわけです。

(構成=塚田有香 イラストレーション=米山夏子)

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