関数電卓は海外の学校では必需品に

ひと口に電卓といっても、電卓は大きく2つのジャンルに分けられる。会計や日常の計算に使う「一般電卓」と、中学から大学までの数学や理工系の学習で使われる「関数電卓」だ。

関数計算や統計計算など多彩な機能を備えた関数電卓
筆者撮影
関数計算や統計計算など多彩な機能を備えた関数電卓

一般電卓の国内市場が縮小する一方、関数電卓は事情が異なり、まだ一定の需要が継続している。日本では工業高校、理工系の大学生が主な利用者だが、海外では入学時にご家庭で用意する「学用品リスト」に、ノートや鉛筆と並んで関数電卓が記される国もある。そのような国では教育現場での必需品として位置づけられているため、景気や流行に左右されにくい安定した需要があるのだ。

「授業中にスマートフォンを取り出せば、計算をしているのか、SNSを見ているのか、先生にはわかりません。試験では不正利用につながるおそれもある。授業にタブレットが導入されても、試験では関数電卓の持ち込みだけが認められる国が少なくないのです」

カシオの関数電卓は世界約100カ国で販売され、電卓全体の販売台数の約半数を占める。電卓のほか、電子辞書や教育アプリなどを含む教育事業は、時計に次ぐ事業の一角を担う。

世界初の小型純電気式計算機「14-A」
筆者撮影
世界初の小型純電気式計算機「14-A」
本社の展示室に並ぶ歴代の計算機たち
筆者撮影
本社の展示室に並ぶ歴代の計算機たち

「成熟した市場だからこそ、勝負できる余地がある」

「社名は『カシオ計算機』ですから、電卓事業は当社のブランドの原点を担ってきました。ただ、原点だから事業を残している、というわけではありません。事業である以上、きちんと収益を追求していく。必ずしも伸び盛りの市場ではありませんが、確実な需要を捉え続けることで十分に成立できる事業なのです」

ただ、選ばれ続けるためには、従来と同じ商品をつくり続けるだけでは足りない。「成熟した市場だからこそ、勝負できる余地があると考えていた」と佐藤事業部長は言う。

「私たちは『ニッチトップ』という考え方を大切にしています。小さな市場、分野であっても、お客さまから最も選ばれる存在になれるかどうか。それが重要なのです」

「ニッチトップ」を具現化した漆電卓
筆者撮影
「ニッチトップ」を具現化した漆電卓

市場に改めて電卓の価値を問い直すような一手が必要だ――。その答えとして生まれたのが、約10万円の漆電卓だった。

道のりは平坦ではなかった。社内では「10万円は高すぎる」「売れるわけがない」との声も出た。だが、引かなかった。失敗した場合の対応まで含めて事前に検討し、企画を通した。

「売れるかどうかだけを考えるのであれば、もっと無難な商品もつくれたと思います。ただ、それでは市場は驚きません。プレミアムな電卓をつくると言いながら、中途半端なものでは『ちょっといい電卓ですね』で市場の評価は終わってしまう。それでは誰の記憶にも残りませんし歓んでいただけません。であれば、常識を一度飛び越えた商品を作ろう。それこそ、清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟でした」