濾過も清澄もしない「生ワイン」の製法

「研修で濾過する前後のワインを飲み比べたとき、濾過前のワインのほうが断然魅力的だと感じました。旨みと一緒に雑味も残りますが、味に複雑さが出るんです。『地元野菜に合わせて楽しむワイン』という東京ワイナリーのコンセプトにぴったりでした」

東京ワイナリーでは、加熱処理も行わない。酸化防止剤もごく少量しか使わず、8〜9割のワイナリーが発酵を促すために投入している「市販の酵母」も加えない。以前はどちらも使用していたが、徐々に切り替えた。「できるだけ自然なままの味わい」のワインを目指しているからだ。

市販の酵母が悪いというわけではない。ただ、入れるとワインがきれいに整いすぎて、「どれも似たような味」になってしまうという。ぶどうに付着している野生の酵母だけで発酵させたほうが果実味が残り、味も香りも独特のワインに仕上がるのだ。

2019年からは醸造だけでなく、練馬区内でぶどう栽培も行っている。ワイナリーを始めた当初は、「畑は契約農家に任せる」が越後屋さんの方針だった。それを変更してまで栽培に踏み切った理由は、大きく二つだ。

東京ワイナリーのぶどう畑
筆者撮影
東京ワイナリーのぶどう畑。住宅街の中に点在している

創業5年足らずで畑が次々と住宅に変わった

一つは、ワイナリー周辺の畑が年々減少するのを目の当たりにしたこと。創業5年足らずで、あそこも、ここも……とかなり早いペースで農地が住宅に切り替わっていった。危機感を強めていたとき、絶妙なタイミングで新しい法律(都市農地賃借法)ができた。

それ以前は農家以外が都市農業に携わる方法はなかったが、この法律で農地の賃借が可能になった。東京ワイナリーが農家から畑を借り受け、ぶどうを栽培する道が開けたのだ。

二つ目の理由は、ワイン専用の品種で「東京のワイン」を造ってみたくなったことだ。東京ワイナリーが契約農家から仕入れる東京産ぶどうは、すべて食用で、シャルドネやメルローなど、ワイン専用品種はゼロ。ワイン用のぶどうは食用に比べて価格が安く、面積の狭い都市の農地で生計を立てるのは難しい。自分で栽培する以外には手に入りそうもなかった。

それなら、状況が整った今トライしてみようか。越後屋さんの「チャレンジャー精神」がむくむくと湧き上がってきた。

収穫前のぶどう
筆者撮影
収穫前のぶどう。ここから1週間ほど待つ

2018年中に農業委員会や区との複雑な手続きを終え、農家と賃借契約を結ぶ形で自社畑「Tetto」が誕生。名前の由来は畑の隣に鉄塔が立っているから。ぶどう栽培が始まったのが2019年2月だった。その後少しずつ周辺の農地へと広がり、2026年8月現在6カ所、約5000m2にまで増えた。