潰し方の違いが「ワインの複雑さ」を生む
さまざまな人が醸造に携わることは、ワインの味にも良い影響を与えていると越後屋さんは話す。
「赤ワインは最初にぶどうを茎から外し、潰す作業を行います。その潰し方一つとっても、じっくり丁寧な人もいれば、ぱぱっとスピード重視でやる人もいる。そういう違いが混ざり合うことで、ワインの複雑さや個性が生まれると感じます。人の手にしか出せない風味というか」
一般的な醸造家のイメージといえば、職人気質でストイック。他人を寄せつけず、自分のワインを突き詰める姿が思い浮かぶ。それと真逆をいくのが越後屋さんだ。
自分一人の理想を追うのではなく、参加した人がそれぞれ持ち味を発揮できる場を用意する。それが、ワインのオリジナリティや「東京ワイナリーらしさ」を生み出していく。彼女が理想とするのはむしろ、「一人では決して造ることのできないワイン」なのかもしれない。
初醸造のワインは「想像以上の出来」
2014年に初めて醸造したワインは、想像以上の出来だった。質、量ともに納得のいくワインが完成し、越後屋さんは満足感で満たされた。今から振り返れば知識や経験不足は否めないものの、当時は胸を張って送り出せる「おいしいワイン」が完成し、それを届けられることに大きな喜びを感じた。
「東京ワイナリーらしさ」を語るうえで忘れてはいけないのが、独特の醸造方法だ。筆者の印象では、東京ワイナリーのワインは、他のワインに比べてぶどうの味や香りが際立っているように感じる。飲み口はフレッシュで切れ味が良いが、単にすっきりしているだけではない。深みや苦味などがわずかに舌に残り、農産物特有のミネラル感がある。
この味を生み出しているのが、いわゆる「生ワイン」と呼ばれる製法。通常、ワインをビン詰めする前に経る「濾過」や「清澄」と呼ばれる工程を、東京ワイナリーでは行わない。これらの作業で細かい果肉片や濁りを取り除くと、苦味が消えて透明度の高い美しいワインが出来上がる。だが、越後屋さんは「同時に旨みも失ってしまう」と感じていた。


