36歳で描いた「クラフトビールのワイン版」

越後屋さんがイメージしたのは、「クラフトビールのワイン版」。当時、各地にマイクロブルワリー(小規模醸造所)が並び始めていた。これをワイナリーにしたら……と想像すると、次々にアイデアが浮かんでくる。東京のぶどうでワインを造り、一緒に野菜のメニューも出そう。すぐにヒントになりそうな店舗に赴き、情報収集を開始した。2012年、越後屋さんが36歳のときだ。

実は、このとき越後屋さんは既に大田市場を退職し、メガネの輸入・販売会社に転職していた。農家との付き合いは続けながら、「いろいろなことを経験したい」と異なる世界に身を置いたのだという。

そして、ワイナリーの創業直前までこの仕事を続けた。自ら事業を起こすにはそれなりの元手が必要になる。平日は仕事で資金を貯め、休日は全国を飛び回ってリサーチや準備に励む。慌ただしい生活を送っていた。

年間6000リットルが「果実酒製造免許」の条件

ここで、ワイナリー開設のために必要な資格について紹介しよう。日本でワインを醸造・販売するためには、「果実酒製造免許」を取得する必要がある。所管税務署に申請書を提出し、厳しい審査を通過しなくてはならない。年間6000リットル、750mlビンにして8000本という最低醸造基準も設けられ、申請書には詳細な事業計画が求められる。

醸造作業を行うスペース
筆者撮影
店舗の奥には醸造作業を行うスペースがあり、所狭しと機械や道具が並ぶ

ワイン造りも事業運営も素人だった越後屋さんは、まさにゼロからの出発。事業計画作りのために都が主催する起業塾に通い、全国のワイナリーやぶどう農家を視察した。

とにかく多くの場所に足を運び、たくさんの人と会った。そこで「東京でワイナリーを作りたいんです」と名刺を配ると、「頑張って」「応援しているよ」と言ってくれる人もいた。

しかし、ワイナリー関係者に同じ話をすると、まったく異なる反応が返ってきた。「東京でワイナリーなんてできるわけがない」「自分は免許取得に10年かかった。素人にはムリ」と散々な言葉ばかり……。現実をよく知るプロにそこまで言われて、諦めようとは思わなかったのだろうか。