圧倒的な試行回数で「人間のひらめき」を凌駕する
このように、他とは比すこともできないような成果をあげてきたDeepMind社が、満を持して開発したのがAlphaEvolveである。AlphaEvolveは「潜在的な回答があると想定されるタイプの問題に対して最善の回答を見つけるアルゴリズム」に限られるものの、問題を与えれば、人間には考えつかなかったような効率的なアルゴリズムを自分で発見できることを示したのだ。
AlphaEvolveは、継続的な試行錯誤と評価を通じて、AIがこれまでにない新たなアイディアを生み出せる可能性を示している。つまり、じっと考え込むのではなく、非常にたくさんの方法を試して、従来のアルゴリズムより優れたアルゴリズムを探すことができる。
人間が新しいアルゴリズムを考えるときは、もちろん試行錯誤も大切だが、それと同等あるいはそれ以上に「エウレカ!(ひらめき)」が大事なのであり、網羅的にありそうなものを片っ端から試したりはしない。その意味でAlphaEvolveの研究はまさに、まず仮説を立ててから検証する従来型の研究とは異なる、圧倒的な量の試行から発見を導く「データ駆動型」である。
現状のAlphaEvolveは、人間が「答え」があることがわかっているものの探しきれない答えを探す「試行錯誤」に強みを発揮しているが、人間が「ひらめき」で見出すような自然法則の発見にはまだまだという感じである。
しかし、惑星の運動データから軌道を高い精度で予測したり、観測データから既知の物理法則を再発見させたりする研究も進んでいる。そこから自然法則の発見まで行きつくのも、絶対に不可能だとは言えない段階に来てはいるだろう。AIが「予測する」ことから、背後にある「法則を見つける」ことへ進めるのかは、まさに現在進行形の研究テーマだ。
生成AIが人間を「奴隷作業」から解放する未来
AIが変えるのはアルゴリズム開発だけではない。実験科学の現場にも、同じ地殻変動が迫っている。
これは、とある生物実験の自動化を目指している起業家の講演で聞いた話である。生物学、特に分子生物学の実験は大変に過酷だという話だ。微量の細胞や遺伝子にさまざまな試薬を加え、化学反応をみるという地道な作業を延々と繰り返す必要がある。そのときに使うピペットというスポイトのような器具の名前をもじって、この過酷な作業を行う研究者は自らをピペド(「ピペット奴隷」の略)と自虐的に呼ぶことさえあるという。
だが、現在、このような時代は過去になりつつある。ピペットを用いる実験を代替するロボットが開発されつつあるからだ。このようなロボットを用いて、将来は以下のようなシステムが構築されるだろうと、講演の中で起業家は予測していた。
人間同士が議論してどんな実験をすればいいかを決め、それを言葉で生成AIに伝えると、生成AIは実験をデザインしてロボット実験室に指令を送り、実験を行って結果を収集し、それを整理して人間に戻す。これを成功するまで繰り返すというのである。

