舞台は石川県羽咋市の神子原(みこはら)地区である。人口はかつて1000人を超えたがいまや半減、加えて65歳以上の住民が半数を占める限界集落だ。
この過疎の村を覚醒させ、限界集落から脱却、ローマ法王に献上の「神子原米」というブランド米を生み出すことに成功した羽咋市役所の職員、高野誠鮮さん(58歳)の記録である。
高野さんは羽咋市の名刹の次男だが、跡継ぎとして東京から戻り、市の臨時職員として奉職、農林課に属していた。平成17年4月、市長から2つの命令が下る。(1)過疎高齢化集落の活性化、(2)農作物を1年以内にブランド化せよ――。
農業とは無縁だった高野さんには不可能に近い難題であったが、「むずかしい仕事に直面すると、胸がジーンと熱くなるのです」。
高野さんはシナリオを描いた。主役は村人である。高齢化阻止には空地・農家を若い都市住民に貸す。自ら農作物に価格を付けて売る販売会社の設立、等々。
村は紛糾した。これまで役所とJAの2つの補助輪に支えられてきた。その支柱を取り払って自立せよ、というのだ。
「赤字は、市が面倒見るのか」
「黒字になるまでやるのです」
途端に、灰皿が飛んできた。
「あんたが米を売ってくれれば言うことを聞くよ」
「わかりました。約束ですよ」