年を重ねても一線で活躍している人がいる。どうすればいつまでも頭脳明晰でいられるのか? 元気でいる秘訣と生活習慣に迫る。

入社したのは1956年。気がつけば「サンコーインダストリー」に勤続70年になりました。96歳になりましたが、おかげさまで元気に働かせてもらっています。今日も家からバス、地下鉄、徒歩の通称「BMW」(バス・メトロ・ウオーキング)で片道1時間かけて通勤しました。

所属は総務部。伝票起票や決算データの収集、新人研修の運営などを担当しています。仕事でパソコンも使いますよ。紙の資料は間違えた記録がそのまま残ったりしますが、パソコンのデータは訂正しやすいのがいい。なめらかなタイピングはできなくても、キーをポツポツ打ちながら作業しています。パソコンに入っている数字パズルのゲームも毎日やりますね。

実は、仕事をしていて記憶力の低下を感じることはあまりないんです。定型的な仕事が多くて頭の中に工程がしみ込んでいるせいか、「あれ何だっけ?」と思うことなく自然に体が動きます。

もともと計画を立てて行動するのが好きでした。会社が年間の事業計画を発表したら、それを毎月の重要項目、さらにいつ行うかというワークスケジュールに分解して、手帳に書き込んでいきます。それを読むと翌日にやるべきことが理解できるので、朝から「今日はこれをしよう」と迷わずにすっと動けます。

計画を立てるだけでなく、実行する手順も大事にしています。仕事や家事に取り組む際、「あれをやった後にこれをする。それを片付けたら次はこれ」と順序立てて考えるようにしていると、物事が忘れにくくなります。

考えていることや新しく知ったことは、ノートに書き出すようにしています。たとえば仕事中にミスをして、「睡眠時間が足りなくて頭がぼやけてんちゃうかな?」と思ったら、睡眠不足でどんな症状が起こるかをインターネットで調べて、それを全部書いておく。社長が毎週社員にメールで送るメッセージを読んだら、感想や意見を書いたりもしています。そうしたメモは折にふれて何回も見返しますね。

社長メッセージに対する感想と景気短観のまとめについて記したノートのメモ。
社長メッセージに対する感想と景気短観のまとめについて記したノートのメモ。

一方で、注意力や集中力は昔より衰えている感覚はあります。午前中はわりと考えがまとまる時間帯なので、急ぎの提出物や後の工程に影響が出そうな仕事は、なるべく午前中に片付けるようにしています。

詩から短歌、そして俳句言葉を探して脳を活性化

スポーツの応援、歌舞伎鑑賞、競馬……。仕事を離れると趣味がたくさんあって、詩歌をつくるのも好きです。30歳ぐらいまでは詩に没頭して、同人活動もしていました。それから短歌を嗜むようになり、今は俳句が好きです。

俳句は少ない言葉で読み手に情景を浮かべてもらわないといけません。なので、言葉についてあれこれ考えることがあります。たとえば、夏に雷さんが鳴るじゃないですか。稲妻は漢字で書いたら「稲の妻」。それを起点に、「雷も天のお恵みなのかな」「稲妻にどんな言葉を足せばいいだろう?」と考えを巡らせます。俳句はある言葉を足すことで1+1=2になるようではダメなんですよね。世界が広がる言葉をああでもないこうでもないと探すことで、脳が活性化する気がします。

仕事や生活をするうえで、私が何より重視しているのが掃除です。常に片付けようという気持ちがあって、整理・整頓・清掃の「3S」を実行していれば、多くのことがうまくスムーズに進むのではないでしょうか。モノの整理が行き届いていると、頭の中も整理されるものです。整理する行動が癖になって、さらに性格として定着していれば言うことはありません。

また、整理整頓において欠かせないのが「捨てる」ことです。会社では保管期限が切れてからしばらく経った資料を破棄する箱を用意していますし、パソコンに保存しているファイルやソフトは適宜削除しています。

家庭生活でも同じです。いつまで経っても使わない日用品には、赤い小さなラベルをつけています。それがたまったら箱にまとめて、1〜2年ほどその蓋を開けなかったら、躊躇せずに捨ててしまうのです。

捨てるものと捨てないものを判別すると暮らしやすくなるように、物忘れしやすい人は、「覚えておくべきもの」と「覚えなくていいもの」を識別するのがいいのではないでしょうか。後者は思い切って捨てて、「覚えておくべきもの」だけに意識を集中する。自分の中の優先順を理解していれば、思い出そうとするときに迷ったり記憶が混ざったりしにくくなります。

玉置泰子さん
玉置泰子:1930年生まれ。商業高校を卒業後、25歳で三興鋲螺(現・サンコーインダストリー)に入社。以来、経理や庶務の業務を担ってきた。2020年「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定。著書に『92歳 総務課長の教え』(ダイヤモンド社)。

毎日の切り替えができると70年勤めた意識がなくなる

毎朝行っている習慣があります。まず起きたら、筋肉の萎縮を防ぐために手足を伸ばしたり縮めたりする軽い運動。その後は瞑想です。頭のてっぺんから足の先まで何にもないという無我の境地になるように努めます。そこで10分ぐらい経って体の一部を叩くと、新しい自分がそこにいる気がします。最後に仏壇に向かって般若心経を唱えると、清々しい気分になります。この儀式をもって、今日という新しい一日が始まる心持ちになって、今を生きることに集中できるのです。

夜寝る前には一日過ごせたことに感謝して、その日は終わりです。一日一日をリセットして、明日はまた別の日がやってくる。今日は昨日の続きではないし、明日は今日の続きでもありません。毎日切り替えができているので、過去を引きずることもありません。だから、「70年も勤めた」という意識もほとんどないんですよ。

「昔がよかったな」と感じることも少ないですね。テクノロジーが進化して環境が変化しているのは、便利になったと歓迎しています。自動改札なんて交通系ICカードを当てて「ピッ」で済むから、楽しいじゃないですか。

昭和、平成、令和と時代が変わっていってるのに、昭和の私の考えが正しいなんて頓珍漢なことは言えません。今は今の若い人たちがリードしてくれればいい。そこに自分がどれだけ貢献できるかわからないけれど、古い知識が必要なときもあるから、そのときに力になれればいいと思っています。その感覚があるせいか、職場で若い人と仕事しても違和感はありません。

若い人とうまくコミュニケーションを取るコツは、自分が先輩だと偉ぶらずに相談すること。相談された側は、自分を頼りにしてくれていると思えて嬉しいものです。私はパソコン操作でわからないことがあったとき、「どうすればいい?」と何十歳も年下の仕事仲間に助けを求めます。「屈託なく頼る」ことができると仕事が進むし、若い部下との距離も縮まりますよ。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年10月2日号)の一部を再編集したものです。

(構成=鈴木 工 撮影=塩崎 聰)
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