認知症の人の言動は、時に家族を困らせる。でも、その世界が見えたとき、向き合うのが驚くほどラクになる。40年以上認知症を診てきた専門医が明かす、11の場面の「本当の意味」とは――。

認知症の人は「本音」で生きている

私は認知症の人が大好きです。なぜなら、素直に、本音のままに生きているから。こちらに何も求めていないようでいて、彼らは救いを求めています。相手に話を聞いてほしいのです。私の外来では「本音が話せるから楽しい」と笑顔を見せる人もたくさんいます。

ただ、そのまっすぐさが、家族には困りごとと映ることもあるでしょう。とりわけ家族を悩ませる言動の一つが、被害妄想です。「財布がなくなった」「おまえが盗ったんだろう」などと泥棒呼ばわりされるのは堪えるものです。

けれども、まったく脈絡のない妄想ではありません。大事なものをどこかにしまった。その後、しまったことを忘れてしまい、手元に何もない状態だけが残る――その空白を埋める言葉が「盗られた」なのです。いわば、自分の物忘れに対する「取りつくろい」であって、悪意があるわけではありません。むしろ、なんとか筋道立てて物事を考えようとしている努力の表れとも言えます。そう考えると、見える景色も少し変わってきます。

(構成=本誌編集部 イラストレーション=前田はんきち)