成城のソフトクリームおじさん

以前、私が東京・世田谷の成城学園に住んでいた頃の話です。

ある秋の夜。私は知人とお酒を飲み、成城学園駅で下車し、少し酔っ払いながら自宅に向かって歩いていました。

すると前から、50代と思われる恰幅の良いサラリーマン男性が歩いてきました。上品なダブルのスーツ、ブランドのバッグなどから想像すると、会社でもかなり上の方の役職だと思います。また、高級住宅街と言われる、このあたりにおそらく自宅があるのでしょうから、富裕層と言えるでしょう。

そんな身なりの良い男性が右手に持っているものに、私の目は引き寄せられました。バニラのソフトクリームを持っていたのです。

ソフトクリームを食べる
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです

近所にあるコンビニで買ったのでしょう。そのバニラソフトをペロペロとなめながら歩いてくるのです。

口の周りには、クリームがべっとり。決してきれいな食べ方ではないのです。でも、その表情は、まるで子どものように嬉しそうで、見ているこちらまで幸せになるほどでした。

ここからはすべて私の妄想です。

〈体形から察するに、その男性は家族から「甘い物禁止」などと言われているのではないか? もしかしたら、糖尿病予備軍かもしれない。

だから、家ではアイスなんて決して口にすることはできない。

そんな彼が唯一の楽しみにしているのが、帰り道にひとりで食べる禁断のソフトクリーム。

会社では素晴らしい上司と評価され、家では良きパパとして過ごしている彼が、「オレだって、けっこういい加減な人間なんだぞ! こんなふうに口の周りにクリームをいっぱいつけて食べちゃうんだぞ!」

と思い切り自分を解放しながらソフトクリームにむしゃぶりついている……〉

私の目にはそう映りました。

今この時間を愛おしむように食べていた、コンビニのバニラソフト。男性にとっては、高級レストランのデザートとして食す高級アイスより何倍もおいしいに違いないのです。

極上の幸せはわずか数百円で手に入る

私は、あの男性の嬉しそうな顔を思い出すたび、「結局、幸せってこういうことなんだよな」と再認識します。

書影
和田秀樹『60歳からの 世にも愉しい「ひとり時間」の過ごし方』(永岡書店)

俳優の小沢昭一さんが「幸せはささやかなるものをもって極上とす」という言葉を残していますが、まさに至言。高いお金を使わずとも、わずか数百円で、極上の幸せは手に入れられるのです。

あの男性なら、帰りの満員電車で押しつぶされそうになっても、「駅を出ればバニラソフトが待っている」と思えば、きっと耐えられるはず。本当にそういうものなのですよね。

「孤独」である人は、好きなこと、やりたいことを我慢する必要なんてないのです。誰にも気兼ねせず、常に思い切り解放できるんです。こんなに素晴らしいことはない――そう思って良いのです。

あまりお金をかけず、けれどもあなたをとても幸せにしてくれるモノやコトは何でしょうか? コンビニ、100円ショップ、ディスカウントストア、インターネット……探してみると、身の回りに案外あるはずです。

プレジデントオンラインをGoogleに優先表示

検索時に関連する記事が表示されます

【関連記事】
腸の壁に穴が空き、全身がボロボロに…内科医が「毎日食べてはダメ」と警告する"みんな大好きな朝食の定番"
安っぽい服ばかり着ていると人生大損する…トップスタイリストが教える「今すぐやめたい残念な服」の特徴
"ヨボヨボ化"を進めるのはラーメンでもパスタでもない…血管・歯・腎臓を同時に壊す「最悪の麺」の正体
ギャンブルでも、旅行でも、美術品収集でもない…和田秀樹が手を出すなという「世の中で一番金のかかる趣味」
パカッと開けて週に1、2個食べるだけ…がん専門医が勧める「大腸がんを予防するオメガ脂肪酸たっぷり食品」