円安なのに貿易赤字が減らない謎

円はどれぐらい弱いのだろう。円のほんとうの価値は、新聞に出ている名目上の円ドルレートとは異なる。むしろ、日本の貿易パートナー全体に対する円の購買力だといえる。

日銀は、物価の違いとインフレ率を加味して他の通貨に対する円の名目為替レートを調整する。2025年8月時点で、円の実質価値は、半世紀前に比べ平均40パーセント下がっていた。固定為替相場制が崩壊した1971年時点よりも、円は弱くなっているのだ。

値下げをすると店の売り上げが伸びるように、円安になれば貿易収支が黒字になると思われる。ところが、安倍晋三が円の切り下げによって貿易収支を改善しようと訴えはじめてから11年間、日本の貿易収支は3年を除いて毎年赤字だった。平均すると貿易赤字はGDPの1パーセントに相当する。

2025年上半期には、円安が大幅に進んだにもかかわらず、まだGDPの0.75パーセントに相当する貿易赤字を出していた。対照的に、1994年から2010年の期間では、物価調整後の実質ベースでいまよりはるかに円高だったが、毎年貿易収支が黒字だった。

「牙城」自動車産業も中国に追い越された

韓国など他の国は、賃金が上がり通貨が比較的安定している状態でも、世界市場で競争力を維持している。それならなぜ、日本は超円安になっても輸出戦線でもっと優位に立てないのか?

1985年のピーク時には、日本は「先進国」による輸出全体の8パーセント(物価調整後の金額)を占めていた。その後数十年にわたり継続的に円が切り下げられていったにもかかわらず、その割合は少しずつ下がりつづけ、わずか5.8パーセントになった。対照的に、アメリカとドイツは同じ割合を維持している。

2000年に、日本の電子機器メーカーは、GDPの1.3パーセントにも相当する多額の貿易黒字を手にしたものの、現在、電子機器分野は恒常的にかなりの額の貿易赤字を出している。自動車産業では、2023年に日本は中国に追い越された。

一列に並んで駐車しているレクサスのSUV
写真=iStock.com/Tramino
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自動車の事例は、円安になっても政策立案者が期待していたほど輸出が拡大しなかったもう一つの理由を示している。日本の自動車メーカーは、海外での売り上げの80パーセント以上を、日本からの輸出でなく海外生産から得ているからだ。同じ傾向が、電子機器、機械など他の製品でも見られる。日本企業が生産拠点を海外に移すほど、円安によって得られる輸出額の増加が少なくなるのだ。