円安を犠牲に、自動車産業を守る

円安は日本の利益になると説く者もいる。たとえば、高市早苗首相の主要なアドバイザーであるクレディ・アグリコル証券のチーフエコノミスト会田卓司だ。この説は正しくない。もう一人のアドバイザーで安倍晋三の側近でもあった本田悦朗は、1ドル150円程度は容認できると示唆した。

円安は日本の輸出業者の利益と株価を押し上げるかもしれないが、消費者や労働者や中小企業にとっては重荷になる。1ドル100円であれば、1000ドルの輸入製品を10万円で買える。1ドル150円だと15万円だ。

じつのところ、2025年後半時点で、2020年以降の物価上昇の80パーセントが、エネルギー、食品、衣料品、靴といった輸入依存度が高い品目によるものだった(図表1を参照)。円安によって実質的には、世帯と中小企業の所得が自動車メーカーなど政治的な力をもつ輸出企業に移転されているのだ。

実質賃金が下がっているため、消費者需要が低下し、家計消費も落ち込んでいる。この状況は消費者に悪影響を及ぼすだけでなく、大手輸出業者ではない数百万もの企業に損失を与える。

それでも高市は、「いかなる犠牲を払ってでも」政府は自動車産業とその関連産業を支えなければならないと発言している。高市は、どんな犠牲かは明らかにしなかったが、その一つが円安だ。

必死の為替介入も「焼け石に水」

何年ものあいだ、安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁は、円安のほうが日本にとって益があると言い立てていた。円安になると輸出が増えるので、成長が促進され誰もが所得を増やせる、と主張した。

高市もまだその考え方を踏襲しているが、また一部の企業のトップは円安で自社は得をすると考えているかもしれないが、政治家の大半と財界のリーダーの多くは、もはや円安が望ましいとは思っていない。円安が過度に進むと利益よりも害の方が大きくなるという認識が広まっている。

財務大臣は、円安が進みすぎたと考えると金融市場に介入することまでしている。しかし、介入は効果的でない。市場介入は、市場が経済のファンダメンタルズと乖離しているときにのみ機能するものだ。しかし、昨今の円安は、金融市場に関しても日本企業の実際の競争力に関しても、経済ファンダメンタルズをしっかりと反映している。