冷蔵庫もクローゼットも空っぽ
決行日までに主にしたのは断捨離だ。押し入れやタンスなどに収められた大量のモノを手放し、気付けば夫が開けることのない寝室のクローゼットも空になっていた。
そして迎えた5月下旬、決行日の朝。計画的に冷蔵庫の食材を使い切り、空っぽの状態にして、出勤する夫を見送る。
母親の軽自動車を借りて、何往復もして必要な荷物を運び出した。
「夫が帰宅する時間が近づくにつれ、動悸が止まらなくなりました。そして夫が帰宅したであろう時間を過ぎると、案の定、夫から鬼電。着信音は消していましたが、おびただしい数の着信履歴でした。夫が実家に来ましたが、怖くて母に対応してもらいました」
翌朝、スマホを見ると、夫からのLINEが届いている。恐る恐る開封すると……。
「母が、『うつ状態が悪化しているから心配で預かったの』と言って対応してくれたので、私が離婚を考えているなんて想像もしていなかったのだと思います」
LINEの文面は、気持ち悪いくらいに“した手”だった。
「ママへ。話すのが無理ならLINEします。実家でゆっくりしてください」
「『え? 誰ですか?』って内容です。ママなんて初めて言われました。これまでの態度や、次男に怒鳴ったことなど『すべて俺が悪かった』と細かく記載されていて、『自覚あったんだ』と唖然としました。それって、わかっててやったってことですよね? 今までLINEなんて、帰宅時間を聞いても『18:30』と数字のみ送ってくるような人だったのに、長文で絵文字まで入れてくる始末。あれだけ私を奴隷のように扱ってきたのに、いざいなくなったらこのありさま。人って怖い……というか夫が怖いと思いました」
昼逃げから10日後、離婚申立書と、弁護士が水沢さんの代理人になったことを知らせる受任通知が、夫のもとに届いた。
「昼逃げする計画は、すべて自分で立てました。夫からの連絡が頻回にあったときなど、少しでもしんどいなと感じた時は、弁護士さんにすぐに相談に行って、助けてもらいました」
なお「法テラス」を通じて一時的に立て替えてもらい、後から分割で支払うことができた弁護士費用は、生活保護のため免除となった。
父親そっくりの人を選んでしまった
父親がアルコール依存で、両親が不仲だった水沢さんは、アダルトチルドレンだった可能性が高い。子どもの頃から母親の愚痴を聞き、慰めてきた経験から、本当は母親から離れたいのに、離れることができない共依存の関係に陥っていた。
ひとり暮らしがしたいのに母親を見捨てられないばかりか、収入のほとんどを母親に渡し、母親のお眼鏡にかなうということを優先。結婚相手選びに関しても、店内での紳士的な表面的な態度だけを見て、自分が相手を本当に好きかどうか、結婚相手としてふさわしいかを吟味しなかった。
夫は、収入はよいかもしれないが、妻や子どもたちに恐怖を与えるさまは、まるで父親そっくりだった。それでも、水沢さんは母親とは違ったところがある。それは、幼い息子たちを連れて、すぐに家を出る決意が固め、綿密な計画を自ら立てて、無事決行したのだ。
その時、長男は7歳。次男は3歳。水沢さんのように「父親=恐怖の対象」と深く記憶に刻まれる前に離れられたことはせめてもの救いだったい違いない。

