「子どもも私もダメになってしまう!」

「うつ病」と診断されたと伝えると、「へえ、それで?」と返された。

「この時私は初めて、夫が“普通”ではないことに気付きました。心療内科は子どもを連れて行けないので、週末に診察の間だけ夫に見てもらっていたのですが『そんな月に何回も行かなあかんの?』と嫌そうでした。1時間ほどカウンセラーさんと話す日もあるのですが、『貴重な週末の休みを潰すなよ』という態度でした」

それでも夫は、全く家事・育児をしようとはしない。水沢さんが体調の悪い時は、汚れた食器や洗濯ものが溜まっていく。すると、視覚的にも精神を蝕んでいった。

そして世の中がコロナ禍に突入すると、水沢さんの心は急速に固まっていった。

夫は在宅勤務が増え、目に見えて不機嫌な日が増えていった。

「今思い返せば、結婚当初からモラハラ要素はあったなと感じます。でも渦中では気付けませんでした。在宅勤務で化けの皮が完全に剥がれました」

夫は、コロナ禍のために子どもが幼稚園に登園できず、家の中で遊んでいると、

「会議をしているのにうるさいんだよ!」

と怒鳴った。夫は言葉の暴力を妻や子に向けてふるった。

まだ1歳の次男が何かの拍子に泣き出せば、

「この声がストレス! わかるか⁉」

と高圧的な態度で責められ、息子たちが静かにするように神経を尖らせていかなければならなくなった。

そのうちに水沢さんは、夫が帰宅するときに鍵が開く音をきっかけに、パニック発作が出るようになる。

6歳の長男が「ママ……今パパに話しかけても大丈夫かな……?」と怯えながら聞いてきた時、「このままでは子どもたちも私もダメになってしまう」という強い危機感に襲われた。

背中を押してくれた長男の言葉

夫と暮らす家を出ることを決意した水沢さんは、その日から情報を集め、計画を立て、少しずつ実行に移した。

「まずは役所に行き、離婚の進め方について相談しました。そこで、もらえる母子手当、養育費の相場などを知り、話し合って離婚する協議離婚と家庭裁判所に申し立て、調停委員を交えてお互いの意見を調整する調停離婚があると教えてもらいました。わが家の場合は、すんなり夫がイエスと言わなさそうなので、調停離婚になるだろうと覚悟しました」

その頃、小2になった長男が「心因性頻尿」になってしまう。

「担任の先生もクラスも変わったので、『新しい環境になったことが原因でしょう』と泌尿器科で診断されましたが、長男は、夫が次男に怒鳴ることも『悲しい気持ちになる』と言っていました」

さらに別の日、長男が言ったことが水沢さんの背中を強く押した。

「パパが怖いから、僕がママからカメラを教わっているところを見られたくないねん。すぐ怒鳴るやん。僕がママの料理を手伝った時もホンマは怖かってん。なんか言われるかなって……。

『父親=威厳があって怖い』ではなく『怯えの恐怖』を長男は感じていたんですね。ずっと。私自身が小さいころから父からの言葉の暴力を受け、わが子にはそんな経験をさせまいと思ってきたのに、『これはダメだ』と自分の中で気持ちが定まった瞬間でした」

それからの水沢さんの行動は早かった。すぐに弁護士事務所にアポを取ると、「法テラス」がサポートしてくれるとわかった。

「法テラス」(日本司法支援センター)は借金、離婚、相続などのトラブルに直面した際、解決に役立つ法制度や適切な相談窓口を無料で案内してくれる国の総合案内所だ。

法テラスの弁護士に夫のDVのことを話し「逃げたいんです」とストレートに伝えた。すると、逃げる時に持っていく物や、婚姻費用が決まるまでしばらく日にちがかかるため、当面の生活費を持っていくようにアドバイスを受けた。

【図表】法テラスでの相談の手順
出典=法テラス

その後、「昼逃げ」の決行日を伝えると、

「その日以降に離婚調停の案内を夫さん宛に送ります」と連絡があった。水沢さんは味方がいると思うととても心強く感じた。