ブランド沿線にこだわった40代夫婦の決断
これまで見てきた通り、新宿へのアクセスがほぼ同じ条件でも、住宅価格は大きく変わります。この価格差が実際の暮らしにどう跳ね返るのか、ある40代夫婦のケースを見てみましょう。
妻は独身時代、小田急線・代々木上原に暮らしていました。閑静な住宅街、洗練された飲食店やセレクトショップが並ぶ街並み、そして「代々木上原に住んでいる」というステータス――結婚後も、この街に住み続けたいという思いは強かったといいます。
しかし結婚を機に物件を探し始めると、現実は厳しいものでした。代々木上原駅周辺の新築戸建ては1.5億円を超える水準で、夫婦の世帯年収では到底手が届きません。それでも「同じ沿線に住み続けたい」という思いから、最終的に選んだのが、代々木上原から急行で15分近く、各停でも20分ほど離れた喜多見駅、しかも徒歩15分の新築戸建てでした。
価格は代々木上原の半分以下に収まり、「この沿線に住み続ける」という当初の希望は一応叶えられました。しかし、夫の勤務先は品川です。喜多見からは小田急線・JR山手線などを乗り継ぐ必要があり、乗り換えを含めた通勤時間は片道60分に達します。
往復2時間の通勤に後悔する日々
この60分という数字を分解すると、負担の中身が見えてきます。自宅から喜多見駅までの徒歩15分+喜多見から新宿までの乗車32分(各駅停車のみ)=47分です。品川まで乗り換えて行くには、これに新宿以降の乗り換え・乗車時間がさらに加わり、片道60分という数字になります。
この沿線に住み続けるという選択と引き換えに、夫は往復2時間の通勤という負担を毎日背負うことになりました。徒歩15分という駅からの距離も、雨の日や荷物が多い日には決して小さな負担ではありません。
ここで読者の皆様に問いたいと思います。
あなたなら、この選択をするでしょうか。「代々木上原に住んでいた」という記憶や、この沿線への愛着だけを理由に、夫の通勤60分・駅から徒歩15分という負担を背負ってでも、住み続けることを選ぶべきなのでしょうか。それとも、こだわりをいったん脇に置いて、通勤も暮らしやすさも含めたトータルで判断すべきだったのでしょうか。
この夫婦のように、住み慣れた沿線への思いを優先した結果、通勤や生活動線に無理を抱え込むケースは、住宅相談の現場では決して珍しくありません。それが「間違い」だとは限りません。重要なのは、その選択にどれだけの対価を払っているのかを、本人たちが自覚しているかどうかです。
住宅購入は、単に家を買うことではありません。これから30年の人生設計を決める選択でもあります。
