ただし、対応を迫られる企業はたまったものではない。企業経営において最も嫌わられる要因は不確実性だが、EUの規制運営の在り方は、企業にとっての不確実性を高めるものに他ならない。進捗が芳しくないとして規制の水準を引き下げるようなことになれば、当初の基準の水準を達成しようと努めた企業には莫大な埋没費用が生じる。
同様の事態はすでに欧州森林破壊防止規則(EUDR)に関しても生じている。これはその生産に当たって森林の破壊を伴っていないことが証明された食品のみの流通を容認するというものだが、その対応コストの大きさに二度にわたり導入が延期、さらに手続きが簡素化される事態となり、先行投資をした企業には莫大な埋没費用が生じた。
必要なのは規制緩和だが…
もともと欧州委員会の競争政策の理念は、域内市場の運営という観点が主であり、要するに域内市場での取引に参加する企業に平等な条件を課すことで、公正な競争を行わせることに重きを置いていた。そうした意味で、PPWRにせよEUDRにせよ、欧州委員会は新しい時代の競争ルールを策定しようとしているのだろうが、性急さは否めない。
それに、欧州委員会は自らの国際競争力の低下を問題視している。その改善を図りたいならば、企業の活力を引き出す規制緩和に努める必要がある。しかしながら、結局は規制強化にまい進するのが欧州委員会である。規制強化するとしても、川上からのトリクルダウンを狙うのではなく、総量的・全方位的な規制強化を志向してしまう。
こうした傾向は、2019年12月に就任したウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長のもとで強化されたきらいがある。その任期は2029年10月までだが、2027年4~5月のフランス大統領選には、同委員長の庇護者であるエマニュエル・マクロン大統領が出馬できないため、欧州委員長の現執行部は徐々にレームダック化するだろう。
ただし為政者は、レームダック化する過程において、何らかの政治的実績を残そうと躍起となるケースが数多い。フォンデアライエン欧州委員長も、自らがリードしてきた規制強化の流れを否定することはできないし、今後も様々な領域で規制強化を模索することになるのではないか。EUが規制緩和に転じる展望は当面、描けそうにない。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)


