「夫から贈与された不動産」が特有財産に
本書で、家事負担分を贈与でもらおうという話をしましたが、夫からの贈与は、基本的には、夫婦の「共有財産」と見なされるそうです。「特有財産」は、夫婦の協力とは無関係に築いた個人の財産を指すので、家事負担分を贈与でもらったのであれば「共有財産」だ、というのも納得です。
ただし、夫婦間で妻(または夫)の専用の財産であると合意した場合は「特有財産」とすることができます。
過去に面白い判例がありましたので、紹介しておきます。
元夫が婚姻期間中に、元妻に贈与した不動産は、実質的な共有財産であると主張したのに対し、元妻はこの贈与は元夫の不貞行為の慰謝料の趣旨でなされたものであるから上記不動産は元妻の特有財産であって財産分与の対象とはならないとして争った件です。
裁判所は、これを「本件贈与は、妻が夫による不貞行為を疑い、現に夫による不貞行為を疑われてもやむを得ない状況が存在した中で、妻の不満を抑える目的でされたものであることからすると、婚姻継続中ではあるものの、確定的にその帰属を決めたもので、清算的要素をもち、そのような場合の当事者の意思は尊重すべきであるから、本件贈与により本件各不動産は妻の特有財産になったと認めるべきである。」(※)とし、財産分与の対象とならないと判断しました。
※大阪高裁平成23年2月1日決定(家庭裁判月報64巻1号80頁)
浮気がバレた夫が、妻に慰謝料代わりに贈与した不動産は、妻の特有財産となったそうです(笑)。
見落としやすい4つの財産
次は、「財産分与の対象だ」と知らずに、見落としやすい財産についてです。
代表的なものを4つ紹介します。
①退職金
離婚したあとに「夫の退職金のことを忘れていた」と気づく。離婚の現場では、よくある話です。退職金は、まだ受け取っていなくても、将来受け取る見込みが高ければ、財産分与の対象になります。
対象になるのは、婚姻期間に対応する部分です。
夫の将来の退職金が2000万円の見込みで、勤続年数の半分が婚姻期間だったとします。婚姻期間に対応する退職金が約1000万円だとすると、その半分の約500万円が、財産分与で請求できる目安です。
退職金は、そもそもの金額が大きいので、忘れてしまうと大損です。
②年金分割
将来もらう年金も、財産分与の対象です。
とはいっても、「夫の年金が半分もらえる」わけではありません。
分割されるのは、婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)の保険料納付記録分だけ。実際に受け取れるのは、自分自身が65歳以降になってからです。
離婚での年金分割が始まったのは、2007年。当時メディアが大きく取り上げ、熟年離婚ブームが起こりました。でも実は、年金分割による増加額は、平均で月約3万円だそう。年間で約36万円。これだけで老後を暮らせる金額ではありません。
メディアに踊らされて離婚してしまった人がいたとしたら、大変な思いをしているのではないでしょうか。
ただ、月3万円だとしても、積み上がれば大きな金額になります。
仮に、65歳から90歳まで25年間受け取れば、月3万円でもトータルで900万円。もらい損ねていい金額ではありません。
請求期限は、離婚後5年以内(2026年3月31日までの離婚は2年以内)。
期限を過ぎると、権利が消滅します。もし、最近離婚したという知り合いがいたら、ぜひ教えてあげてください。
③生命保険
生命保険も、婚姻中に保険料を払っていたなら、離婚時点での解約返戻金相当額が財産分与の対象です。払っていた保険料まで財産だなんて思わなかった、という人もいますが、終身保険や個人年金などの解約返戻金は数百万単位以上になっているものもあります。こちらも忘れずに請求したいところです。
④iDeCo・企業型DC(確定拠出年金)
特に、うっかり見落としやすいのが、これ。
「老後のお金」「年金みたいなもの」という感覚で、財産分与の対象だと意識していない人が多いですが、婚姻中の積立分や運用益は、共有財産。ケースによって扱いは異なりますが、基本、きちんと請求できます。
しつこいようですが、財産分与で、見つけられなかった財産は、なかったのと同じです。
そして、離婚の雰囲気が出てくると、夫の財産を把握するのは難しくなります。
夫がどこに口座を持っているか。どんな保険に入っているか。退職金はいくら見込めるか。iDeCoや企業型DCをやっていないか。
ふだんから把握しておくことが、いざというとき自分を守ってくれます。



