●案件4:小村から相談
【山田君】小村と一緒に会議室へ行ってライトを交換する。
【吉村君】設備保守担当に連絡してライトを取り換えてもらうように小村に指示する。また何でも自分に聞くのではなく、「誰に聞けば一番早いか」を考えてから行動するように指導する。
備品の交換はDの領域。こんなことにまで手をつけていては、時間がいくらあっても足りません。
今の山田君は、図2の「問題解決のプロセス」でいえば、「問題発見」をするのとほぼ同時に「行動」に移っている状態。だから、その場しのぎの解決しかできないのです。しかし問題の本質的な解決には、吉村君のようにプロセスのすべてをきちんと踏んで行動に移すべきです。どれか1つでも省略すると、それだけ判断の精度が下がってしまいます。各プロセスはそれほど時間がかかるものではありません。ここで手間暇を惜しむことで、再びトラブルの処理に追われるほうがよほど時間の無駄でしょう。
常にこのプロセスをたどるようにしていれば、緊急かつ重要な案件はどんどん減ってきて、吉村君のように余裕が生まれるばかりか、手順にモレやヌケがなくなり、論理的な判断が下せるようになります。続けるうちに職場の生産性が上がるのは間違いありません。
――インバスケット思考をするようになった山田君は、自分が振り回されている仕事のほとんどが、ちゃんと小村を教育していないせいで生じていることに気づいた。つまり部長が言う「職場の生産性を上げる施策」とは、「部下を育成すること」だったのだ。そうすれば自分だけでなく、部署全体の生産性も上がる。インバスケット思考の習得で、多少時間的な余裕が生まれた山田君は、さっそく社員教育プランを考えてみることにした。
インバスケット研究所代表
鳥原隆志
1972年生まれ。大手流通企業を経て独立。法人向けのインバスケット教材開発と導入をサポートする。近著に『人を動かす人柄力が3倍になるインバスケット思考』。
鳥原隆志
1972年生まれ。大手流通企業を経て独立。法人向けのインバスケット教材開発と導入をサポートする。近著に『人を動かす人柄力が3倍になるインバスケット思考』。
(長山清子=構成 武島 亨=撮影)