被害者は自力で頑張るしかない
ところが、性暴力被害者であるにのみや氏は、すべて自力でやっていくしかなかった。上司から被害を受けた後も1年近く、自分は大丈夫だと思い、頑張っていた。やがてPTSDの症状に耐えられなくなり、診察を受けたらドクターストップがかかり休職。復帰は難しく、退社するほかなかった。薬代や治療費に毎回数千円、場合によっては数万円単位でかかる日々が始まった。
すぐに生活に困り、借金しないと暮らせなくなったため再就職。しかし日常生活を続けるには服薬が必要で、頻繁に具合が悪くなっていた。幸い経営者には理解があったが、その会社が加害者の自宅近くにあったため、加害者と顔を合わせることに。そのことで症状が急激に悪化して退社。以後は会社勤めをあきらめ、フリーで働くしかなくなった。
20歳で職を失うと約2億円の損害
労働経済学などが専門の大沢真知子氏は著書『「助けて」と言える社会へ』(西日本出版社、2023年)で、性暴力を受けて学業意欲やキャリアを失うことなどにより、被害者がどれだけの生涯所得を失うか推計している。被害年齢が5歳だと約2億4000万円、20歳で約2億1000万円、35歳で約1億6000万円といった具合だ(65歳定年を想定)。性暴力被害に遭った後、これらを補填する人は誰もいない。
にのみや氏の場合、安定した収入を失っただけでなく、これまで約30年間、薬や治療代にかかった費用を計算すると、「家が一軒建つぐらい」の金額に上るという。2006年に自立支援医療制度ができて以後は、医療費の自己負担は1割になったが、PTSDの治療に効果があると言われるPE(持続エクスポージャー療法)などのセラピーや、さまざまなカウンセリングは保険適用されておらず、1回数千円から数万円かかる。
若年層の4人に1人は被害に遭う
以前、PTSDに苦しむ被害者支援が十分でないと指摘した記事「16歳から24歳の4人に1人は性被害に遭う」でも書いたが、性暴力被害者が、高額のため治療を断念しなくて済むよう、支援制度の確立を急ぐべきだ。PTSDやトラウマの症状が高じると、公共交通機関を使えず通院そのものができなくなるので、治療費だけでなくタクシー代など交通費の補助も必要だ。
一方、榎本クリニックの加害者更生プログラムは保険適用があるため、利用者負担は比較的軽く、通院を続けやすい。再犯リスクの程度に従って、週3日から6日通い、朝から夜までいろいろなプログラムに参加するが、1日当たり1000円程度の費用で済む上、昼食と夕食も提供される。ハイリスクの人のための送迎サービスも利用できる。生活保護を受ける必要があれば、ソーシャルワーカーが生活保護申請のサポートをすることも可能だ。

