不公平な環境で戦わされたイラン代表

アメリカ国務省は、ビザ発給を拒否した理由を「イラン代表チームがこの制度(W杯出場)を悪用し、偽りの名目でテロリストを米国に潜入させることを許さないためだ」と説明。ルビオ国務長官は、「軍事精鋭部隊の革命防衛隊に関わる人物が紛れ込んで入国するのを防ぐため、政権として継続して監視にあたる」と述べている。

これは確かに悩ましい課題だ。近年は大勢の人々が集まる巨大イベントが開催される際の「テロ対策」が重要な課題になっている。そのために最善の対応が採られるべきことは言うまでもない。しかし、それが競技そのものに影響する不公平さをどう解消できるのか。イラン代表は、グループリーグ3試合を戦うため、試合のたびにメキシコに戻り、また試合場に向かう長距離移動を強いられた。

これはFIFAとW杯開催国の主権争いと言ってもいいだろう。

FIFAのインファンティーノ会長はイラン代表の参加実現を自画自賛するだけで、アメリカ政府の介入にはコメントを発していない。イラン代表は、アメリカ政府に対してイラン代表を公正に扱うよう交渉しないインファンティーノ会長を強く非難している。

インファンティーノ会長は、昨年「FIFA平和賞 フットボールは世界を繋ぐ」という賞を新設し、12月に第1回受賞者としてトランプ大統領を選んだ張本人だ。受賞理由は「イスラエルとパレスチナの停戦・平和促進への役割」や「世界各地での平和と団結への貢献」とされている。

イラン国旗と星条旗が並んで青空にはためいている
写真=iStock.com/klenger
※写真はイメージです

2年後のロス五輪に漂う政治の影

これはW杯2026中南米大会成功に向けたトランプ大統領への機嫌取りではないかと一部メディアや批評家から批判も出た。サッカーの普及振興よりもいかに最大限の利益を追求できるかに経営方針をシフトしたインファンティーノ体制下のFIFAを象徴している。ビジネスの巨大化をもくろむFIFAはトランプ大統領による介入と圧力を毅然とはねつけられない。

サッカーW杯に限らず、今後、政治とスポーツの関係性はさらに複雑に変化するだろう。

もちろん、ロシアとアメリカを単純に同列には論じられない。それでも、戦争とスポーツの関係にどう向き合うのかという原則について、国際オリンピック委員会(IOC)の判断に一貫性があるのかという問いは残る。

IOCは、トーマス・バッハ会長時代、北京冬季五輪の休戦協定中にウクライナ侵攻をしたロシアとベラルーシに厳しい措置を講じた。実はIOCが政治的な理由で国家を五輪から排除した初めてのケースだった。

ところが現在はコルティナ冬季五輪の休戦協定中にイランに侵攻したアメリカとイスラエルには制裁を科さず、2028年ロサンゼルス五輪の開催国としてアメリカの立場を容認し続けている。この違いをどう説明するのか。

五輪アナリストの春日良一さんは、玉木正之さんが主宰するYouTubeチャンネル「TAMAKIのスポーツジャーナリズム」の中で、ダブルスタンダードに見える理由は「IOCがコベントリー会長に代わり、政治には口を出さないスタンスに転換したため」と話している。「バッハ会長はいろいろ批判もされたが、政治に戦いを挑んだのだ」とも。

もうひとつ、IOCが今回アメリカとイスラエルを排除しなかった背景には国際パラリンピック委員会(IPC)の姿勢も関係している可能性がある。実はIPCはIOCより先にロシアとベラルーシを許し、パラリンピック・コルティナ大会への出場を認めていた。そのため、IOCが強行にアメリカ、イスラエルを排除しても両国はパラリンピックには出場するという、新たなねじれ現象も想定できた。

スポーツ関係者が懸念しているのは、2年後のロサンゼルス大会とトランプ大統領の関係だ。開会式では、トランプ大統領が開会宣言を行う。果たして、事前に決めたとおりの文言をトランプ大統領がそのまま読み上げるか。勝手な発言をしないだろうか、心配する向きもある。