一企業の経営判断に左右されることも

歌舞伎の興行には多額の費用と手間がかかる。俳優だけでなく、衣装、かつら、大道具、小道具、歌舞伎音楽(長唄、竹本、清元、鳴物など)といった多くの伝統技能を担う人々の仕事と生活を支えている。芸の継承は役者だけでは成り立たない。

近年は「ワンピース歌舞伎」や「超歌舞伎」など新たな挑戦も積極的に行われている。保守的な歌舞伎ファンから賛否はあったものの、若年層や海外の観客を呼び込み、「歌舞伎を初めて見る入口」を広げた意義は大きい。歌舞伎は本来、時代の文化を取り込みながら発展してきた演劇だ。伝統の継承と創造は決して対立するものではない。

その一方で、歌舞伎が事実上松竹一社の興行に依存している現状には課題もある。

松竹が今年5月に、老朽化を理由として大阪の歌舞伎の拠点であった大阪松竹座を閉場したことは、一企業の経営判断が伝統芸能としての歌舞伎のあり方に大きな影響を及ぼし得ることを示した。もし将来、松竹が歌舞伎事業を大幅に縮小すれば、この芸能を誰が支えるのかという問題が生じる。

興行の安定という「光」がある一方で、一社依存という「影」も存在するのである。

歌舞伎座
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血縁だけが道ではないが、「家」は超えられない

歌舞伎では家と芸の継承が重視される。後継者がいない場合には養子を迎え、家名を継承することも珍しくない。

女形で人気が高い坂東玉三郎、テレビで人気となった片岡愛之助、若手で活躍する中村莟玉はいずれも一般家庭から歌舞伎界に入り、養子となって家を継承した代表例である。彼らの存在は、血縁だけが道ではないことを示している。

しかし同時に、養子となって家を継承しなければ、大名跡や主役級の役柄に到達することが難しい、という現実も浮き彫りにしている。

家制度を補完する役割を果たしてきたのが国立劇場伝統芸能伝承者養成所の歌舞伎俳優研修である。約2年間の研修を経て舞台に立つ道が開かれているが、修了後は結局いずれかの家に入門し、屋号を名乗って初めて歌舞伎俳優となる。このため、養成制度は家制度を代替するものではなく、その裾野を広げる制度にとどまっているとの指摘もある。

国立劇場の資料によれば、歌舞伎俳優293人のうち国立劇場養成所修了者は99人で約34%を占める(2025年4月現在)。一方、名題俳優ではその割合は約4分の1にとどまり、名題下俳優では半数を超える。なお名題とは日本俳優協会の審査に合格し、披露興行(名題披露)を経て認められた俳優のことで、一人前の歌舞伎俳優として、重要な役を務める資格を得る。

御曹司でも「脇役の家」から抜け出せない現実

この数字からは名題下ほど養成所出身者が増えていることが分かる。主役あるいはそれに準ずる中心的俳優は依然として家制度の中から生まれている。ただし、御曹司も名題試験を受けて名題俳優となるが、それよりはるか前の子どもの頃から特別扱いだ。

興味深いのは、養子となって活躍している前述の3人が国立劇場養成所出身ではないことだ。養成所出身の名題役者の大半は、中堅俳優として歌舞伎公演で活躍している。