NATOなら即座に対応する

日本が平時から示すべきなのは、「どの行動を危険な既成事実化とみなすのか」という明確な線引きである。その線引きを可視化することは、相手を挑発するためではない。中国側に「まだ押せる」という誤算を抱かせず、危機の拡大を防ぐための透明性である。

だからこそ、監視した事実を適時に公表し、同盟国・同志国と共同で追尾や訓練を行い、必要に応じて外交ルートで懸念を伝える。同時に、南西諸島の継戦能力を強化する。違法と断定しにくい一つひとつの行動に、政治的・軍事的なコストを積み上げるのである。

政府発表の粒度も、抑止の一部になる。いつ、どこで、どの艦が、どの方向へ進み、何回の発着艦をしたのか。これを淡々と継続して示すことは、国民への説明であると同時に、国際社会への証拠提示でもある。中国の行動を「見える化」する能力は、艦艇やミサイルと同じく、平時の抑止力を形づくる。

同様の事態が起きた場合、米国や北大西洋条約機構(NATO)であれば、こうした圧力を平時の重大事態として即座に対応する。重要なのは、戦争に至る前の段階を重大な安全保障事態として制度的に扱う能力である。

NATOの公式ページによれば、航空警戒任務は平時の恒常任務であり、戦闘機と乗員が24時間365日、領空侵犯の可能性に即応できる態勢を維持している。これは統合防空ミサイル防衛(IAMD)の一部に位置づけられる空域警戒の制度例であり、今回の海上事案とは対象を異にする。

「抑止メッセージ」を発信するべき

比較すべき点は、制度の有無である。NATOは、常時監視、指揮統制、同盟国間の役割分担、必要時の迎撃、そして公表される説明を一つの体系にしている。米国やNATOであれば、戦闘機、艦艇、哨戒機、情報公表、同盟内調整を組み合わせ、「見ている」「次に踏み込めば代償がある」と示すだろう。

日本も警戒監視をしている。問われているのは、それを国内外に抑止メッセージとして見せきれているかである。慎重さは必要だ。それでも、沈黙や後追いに頼れば、中国側の計算は変わりにくい。平時から海空の部隊運用、外交発信、同盟調整、民間インフラ防護を組み合わせて示すことで、中国側の「この程度なら押せる」という計算を変えられる。

日本が塞ぐべきは、平時と有事の隙間である。中国は、違法と断定されにくい海域で空母運用を重ねる。日本は、国際法を守るがゆえに、すぐ強制排除に踏み切る余地は小さい。この非対称性を放置すれば、中国の行動は「特別な出来事」から「いつものニュース」に変わっていく。

必要なのは、軍事、外交、情報発信、国民保護を束ねた現実的な抑止である。南西諸島での対艦・防空能力、無人機による監視、情報収集・警戒監視能力、港湾・空港の強靱化、弾薬・燃料の備蓄、住民避難と国民保護、日米比・日米豪などの共同訓練を一体で進めることだ。外交面では、中国軍の行動を国際秩序の問題として発信し続ける必要がある。

海上自衛隊の艦隊(2014年7月、京都)
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