「台湾有事の急所」を狙っている
中国側の第二の意図は、台湾有事を見据え、台湾東方からバシー海峡、フィリピン東方、南西諸島周辺に広がる海空域を、平時から中国軍の作戦空間として慣らすことにある。
この一帯は、有事に米軍や自衛隊が台湾支援、部隊展開、補給、退避で使い得る重要な回廊である。そこへ中国空母が繰り返し進出すれば、台湾を西側から圧迫するだけでなく、東側に残された戦略的な余地にも圧力をかけることになる。
台湾海峡の西側だけを見ていると、この危険を見落とす。台湾東方は、台湾にとって退避や補給の余地であり、米軍や同盟国が展開し得る空間でもある。そこに中国空母が平時から近づけるようになれば、台湾は西から圧迫されるだけでなく、東からも選択肢を削られる。宮古島南方・南西に至る発着艦は、この地理と直結している。
6月1日に配信されたロイターの記事は、「遼寧」がフィリピン東方の太平洋で訓練を行い、宮古島から約590キロの距離まで接近したと報じた。ロイターは、中国が日本とフィリピンという米国の同盟国の安全保障協力深化に反応して西太平洋での海洋活動を強めているとも伝えている。
空母運用の意味は、艦載機の離着艦を越えて広がる。空母は、ミサイル駆逐艦、フリゲート、補給艦、潜水艦、陸上航空戦力、ミサイル戦力、サイバー・電磁波の妨害と結びついて初めて作戦能力を持つ。台湾を東側から孤立させ、米軍や自衛隊の接近を遅らせる作戦構想にもつながる。今回の訓練には、その作戦環境を平時に試す意味がある。
この意図に対して、日本の限界は持久力に表れる。南西諸島防衛では、弾薬、燃料、滑走路、港湾、基地防護、住民避難、補給線の厚みが問われる。装備を置くだけでは足りない。危機が長引いたとき、部隊を動かし続け、住民を守り、港や空港を使い続けられるか。中国はそこを見ている。
「なにを許さないか」を明確に示すべき
中国側の第三の意図は、日本、米国、フィリピンへの威圧である。
フィリピン東方で空母を動かすことは、南シナ海だけでなく、台湾とフィリピンの間、さらに日本の南西諸島に連なる海域でも中国海軍が作戦できると示す政治的メッセージになる。
この動きは、接近阻止・領域拒否(A2/AD)の文脈でも読める。周辺国が危機時に部隊を近づけようとしても、中国のミサイル、潜水艦、航空戦力、サイバー攻撃、電磁波妨害によって自由に動けない状況を作る。空母はその一部であり、同時に「中国軍はここまで来る」ということを誇示する力でもある。
日本には日米同盟があり、近年はフィリピン、オーストラリアなどとの協力も深まっている。だが、同盟の抑止力は、存在するだけでは働かない。日本自身が、平時から「どの行動を危険な既成事実化とみなすのか」を示さなければ、中国側には押せる余地が残る。

