マスターズから締め出された男
転売サイトで買った入場バッジと、簡素な折りたたみ椅子。それが、オイルマネーでゴルフの世界を支配しようとした男に唯一許された、男子プロゴルフ最高峰の大会「マスターズ・トーナメント」観戦の方法だった。
男の名はグレッグ・ノーマン。サウジアラビア資本の新興プロゴルフリーグ「LIV(リブ)ゴルフリーグ」で、初代CEOを務めた人物である。
当然、チケットを正規に購入するカネがなかったわけではない。それどころか、元世界ランキング1位、全英オープン2度制覇の伝説的プレーヤーだ。公式の招待状を受け取り、特別ゲストとして迎えられてもおかしくない立場にあった。
実際、以前であれば本人曰く、「メジャー大会の優勝経験者として毎年バッジが送られてきていた」(テレグラフ紙)という。参考までに、歴代マスターズ覇者ともなれば、見晴らしの良いクラブハウス2階のテラスを拠点に、見どころの場面のみコースで観戦することも可能だ。
しかし、米スポーツ専門チャンネルのESPNが振り返るように、マスターズの舞台であるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブは、ノーマン氏への嫌悪感から招待をかたくなに拒むようになった。
締め出されたノーマン氏にできたのは、一般ファンに紛れて列に並び、コース脇に椅子を置いて陣取ることだけだった。
一体、何が伝統あるオーガスタの逆鱗に触れたのか。その答えは、彼が関わり2022年に発足したLIVにある。
静寂を否定した「フェス型ゴルフ」
LIVが立ち上がるや否や、男子プロゴルフ界はたちまち二分し、対立の渦にのみ込まれた。
同ツアーの後ろ盾は、サウジアラビアの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」。50億ドル(約8000億円。6月1日現在のレート、1ドル159.48円で換算、以下同)超をリーグに注ぎ込み、世界トップクラスの選手を次々と引き抜いていった。
名前の由来は、ローマ数字の54(L+Ⅳ)。大会形式として「全54ホール・3日間開催」を採用し、「全72ホール・4日間開催」の伝統を打ち壊すことを狙った。
キャッチコピーは、「Golf, But Louder(もっとうるさいゴルフ)」。若い層に向けたゴルフを打ち出し、静寂の中に拍手が響く従来の価値観を否定。電子音楽が場内に響く、フェスのような雰囲気を目指した。
3日間の日程もおそらくは、だらだらと続かない、フェス並みの「濃い」体験を意図してのものだろう。ESPNは、「LIVは単にPGAツアーと競って優れた商品を届けようとしたのではなく、ゴルフファンの根本的な好みそのものを変えようとした」と指摘する。
ところが、その勢いは長くは続かなかった。ウォール・ストリート・ジャーナルが動画で報じたところによると、PIFは今シーズン限りで資金提供を打ち切る方針だという。
同紙は、「これが終わりの始まりであることは容易に見て取れる」と指摘する。正式な終了宣言こそまだないが、リーグは今、存続の瀬戸際に追い込まれた。

