国際法で退けられても人工島建設を進める
南シナ海は、日本向けの原油や天然ガスの輸送ルートであると同時に、欧州とアジアを結ぶ世界有数の海上交通路として知られる。海上輸送に依存する各国にとって、この海域の安定は経済活動を支える重要な条件の一つだ。
そのため近年は米国だけでなく、英国、フランス、ドイツ、オランダなどの欧州諸国もインド太平洋地域への関与を強めてきた。艦艇の派遣や共同訓練への参加が増えている背景には、南シナ海が地域の問題にとどまらず、国際的な海上交通に影響を及ぼすという認識がある。
一方、中国は南シナ海の約90%に自国の権益が及ぶと主張してきた。その根拠としてきたのが、海域を取り囲むように引かれた「九段線」と呼ばれる独自の境界線である。2016年、常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)はこの境界線とそれに囲まれた海域で中国が主張する「歴史的権利」には国際法上の根拠がないとの判断を示した。
だがその後も中国は南沙諸島や西沙諸島で人工島の整備を進めた。埋め立てによって造成された島のうち3つには3000メートル級の滑走路が建設され、レーダー施設や格納庫、通信施設も設置。現在では軍用機の運用が可能となり、中国海軍や中国海警局の活動拠点として使用されている。
今回のオランダ艦の事案は、こうした状況の中で発生した。中国が海域に対する自らの主張を示そうとするのに対し、欧州諸国は国際法に基づく航行の自由を重視する立場を示している。その認識の違いが、海上での接触として表面化したのである。
南シナ海で積み重ねられる日常的な活動
南シナ海をめぐる対立というと、人工島や軍事基地の建設に注目が集まりやすい。だが海域全体に中国の存在感を行き渡らせているのは、むしろ造成後も途切れなく続く艦艇や公船の運用だ。
フィリピンが実効支配するセカンド・トーマス礁(アユンギン礁)では、フィリピン船が補給任務に訪れるたびに中国海警局の船が接近している。補給船に並走しながら進路変更を求めたり、放水を行ったりする事例も確認されている。補給任務そのものは数時間から数日で終わるが、こうした対応は繰り返し発生してきた。
スカボロー礁周辺でも、中国海警局の船(海警船)が活動を続けている。フィリピン漁船との接触や妨害がたびたび報じられ、漁業活動をめぐる摩擦は止まない。
ベトナムとの間でも状況は似たようなものだ。南シナ海では漁業だけでなく海底資源の開発も重要な課題となっており、中国の海警船や調査船とベトナム側の船舶が接触する事例が繰り返されてきた。
さらに中国は海軍だけでなく、海警船や海上民兵船も活用している。海上民兵船は外見上は漁船に見えるものの、集団で活動することで存在感を示し、周辺国の船舶に圧力をかける役割を担う。
こうした活動に共通するのは、小規模な接触が絶え間なく続く点である。船舶が接近し、警告を発し、相手の行動を制約しようとする。一つひとつは決定的な事件ではないが、同じやり取りが日常的に繰り返されるうちに、中国の艦艇や海警船が海域に展開していることが常態となっていく。

