mustに反抗し、wantを育てる
自分を縛っていたmustの存在に気づいたうえで、自己否定の声が小さくなってきたら、やっとmustへの反抗を始めることができる。つまり、今までとは異なる行動パターンを試してみるのだ。
私にも、それまで越えられなかった一線を越えることができた、思い出深い日がある。その日は仕事関係者の会合に参加する予定だったが、自分がいてもいなくても、結果は大して変わりがないように感じ、気が進まなかった。
以前ならば「それでも責任は果たさねばならない」という考えから会合に出席し、終わった後にむなしい気持ちになることを繰り返していた。
ただ、そのときは折しも、こころをひかれていた絵本作家、ターシャ・テューダーの人生を描いた映画が公開中で、その日を逃したら映画を見られないかもしれないという気持ちもあった。そこで私は勇気を出して会合を欠席して、映画を見に行ったのだ。
ターシャ・テューダーは50代後半でアメリカの田舎町に移り住み、自給自足に近い1人暮らしを始め、生涯続けた。そのライフスタイルはアメリカだけでなく日本でも話題となり、熱心なファンを獲得している。
映画では、「自然の美しさのなかで過ごす日々は、毎日がバケーションのようだ」との言葉どおり、自分のこころのままに生きているターシャ・テューダーの姿が描かれていた。映画が終わったときは感動と温かさに包まれていた。
リスクが少ないことから実験して方向を探る
その夜、眠りにつくときも私のこころは“ほかほか”したままで、充実感が続いていた。今までの自分では得られなかったものだったので、勇気を出してとった行動に対して、「やっぱりこの方向でいいんだ」と、確信めいた感覚も持てた。
それからは、「must」に背いてもいいんだと自信を持つことができ、反抗のやり方が徐々に大胆に、自由になっていった。
自分の経験から言うと、「must」への反抗の仕方は、たとえば転職のような大きなことには最初は踏み出さず、ささやかな行動から始めるのをおすすめする。
リスクが少ないことから実験してみて、「自分が求めている方向はこちらだろうか」と探りながら進める。
そうすると、それまでこころの奥底に閉じ込められていた「want」の自分が、「こちらでいいんだよ」というレスポンスをしてくれるようになる。
最初は「want」の声がわかりにくいので、道に迷ってしまうこともある。そんなとき私は胸に手を当て、「want」の自分は何を欲しているのだろうと聴いてみる。そして、少しでもワクワクするようなことが見つかったら、コストがかかってもきちんと取り組むようにする。
たとえば、行きたいコンサートがあり、東京の公演はチケットが売り切れていて、名古屋ならまだチケットがあるとする。
それまでの自分だったら、「名古屋まで行くこともないな」とあきらめてしまうかもしれないが、「コンサートに行きたい」という胸の高鳴りを少しでも感じたら、それを無視せず行動に移すのだ。
こうやって「want」の声をキャッチして行動することで、自分自身の「want」の声がだんだん大きくなり、はっきり聴こえてくるようになる。「want」がメッセージを発しても、自分が無視してしまったら、その声はまたしぼんでしまう。
なので、特にmustに反抗し、wantを育てるというプロセスを開始した最初は、「want」の声を育てるという意識を持つほうがよい。続けているうちに無視できないぐらい「want」の声が大きくなり、そうすればもう後戻りすることはなくなるだろう。

