行き場を失ったインド人技術者

昨年8月の公表時、「Kビザ」新設をめぐる世論はほぼ無風だった。だが、転機は9月下旬に訪れた。

きっかけは、トランプ大統領による米国内の布告だ。新規のH-1Bビザ申請を行う企業に対し、1件あたり10万ドルの追加手数料を課すとしている。

注意点として、この布告には訴訟リスクがあると指摘されており、今後の司法判断によって運用が変わる可能性がある。とはいえ、仮に大統領布告通り運用されれば、割を食うのはインドの技術者たちだ。英公共放送のBBCによると、近年このビザの取得者は70%以上がインド人である。

アメリカへの門戸が狭まるなか、インドのニュースメディア「ファースト・ポスト」が中国のKビザの存在に注目。マーケットプレイスによると、外国人若手技術者向けビザという点で共通していることから、Kビザを「H-1Bに対する中国のアンサー」と呼んだ。

時系列としては、昨年8月に行われた中国Kビザの発表が先だ。しかし、米H-1Bビザの門戸が極端に狭まった今、Kビザはインドの技術者に向けた、事実上の「中国行きのすすめ」のように受け止められた。

インド人を「ゴキブリ」と揶揄した中国SNS

Kビザ取得を勧めるこうした映像が中国のSNSに転載されると、炎上が始まった。欧米でも話題となっており、BBCは「中国の新たな技術ビザがインドの関心を引いており、中国の人々はそれが面白くない」との見出しで記事にしている。

炎上の規模は凄まじく、CNNによると、Kビザに関連するハッシュタグはわずか2日間で約5億回も閲覧された。

中国SNSでは、インド人への露骨な差別に満ちた言葉が噴出した。米外交専門誌のディプロマットが伝えたところでは、インド人を「不衛生」「信用できない」と蔑む声があふれ、「ゴキブリのようにどんどん増える」と害虫になぞらえる言葉さえ飛び交った。

次いで、安全保障への懸念論が飛び交った。2020年にヒマラヤ国境付近で起きた中印両軍の衝突映像や、戦死した中国兵の写真が改めて拡散された。外国人スパイがKビザを利用して中国の科学機関や先端企業に入り込むのではないか、との憶測混じりの声も上がった。

中国との国境紛争で戦死した兵士たちの勇敢さを称えるインドのナレンドラ・モディ首相
中国との国境紛争で戦死した兵士たちの勇敢さを称えるインドのナレンドラ・モディ首相(写真=インド政府首相府/GODL-India/Wikimedia Commons

挙句の果てには、「ユダヤ系の国際資本」がこの政策の裏で糸を引いている、と主張する反ユダヤ的な陰謀論まで現れた。

同誌は、大量移民の危険性を叫ぶこうした投稿の多くは、皮肉なことに欧米極右派の言説をそのまま中国に持ち込んだものだったと指摘している。