不満の声すら出なくなったら危機的
また、このところ耳にするようになった言葉として、「静かな退職」や「リベンジ退職」といったものもある。「静かな退職」は「会社に所属してはいるが最低限の仕事しかしない」という行動であり、「リベンジ退職」は「会社や上司への不満や怒りを晴らすために、意図的に組織に損害を与える形で退職する」こととされる。
このうち「静かな退職」については、かつて「エコノミックアニマル」、「24時間戦えますか」と揶揄された日本のサラリーマンにとっては奇妙な態度に見えるが、欧米の非エリート層においてはむしろ一般的な労働スタンスであると海老原嗣生(2025)『静かな退職という生き方』は指摘している(エリート層は日米欧とも共通してハードワークが求められるとも指摘している)。
経営者・管理職の多くは、こうした流行語に象徴されるような消極的な労働態度を苦々しく思っているだろう。実際、本稿 本書の読者の中にも、従業員や部下の労働態度への対応に苦慮している人がいると思う。この点、会社に対する不満を言っている従業員はまだマシである。不満を声に出して言っているということは、その会社にとどまることを前提にしている可能性が高いし、言えば何か改善につながるかもしれないという期待を多少とも有していることを表している。
逆にいえば、明らかに苦痛を感じ不満を持っているはずの人が何も言わなくなる時が最も危険である。その人はもう会社に見切りをつけてしまった可能性が高い。これを会社単位に広げていえば、従業員からの文句の多い会社はまだしも健康的である。
逆に、「特に大きな不満の声が出ているわけではないが、淡々と人が抜けていく」という状況に陥った会社は、多くの従業員から「この会社と対話すること自体無駄」と思われてしまっている可能性が高く、人材係留の面では危機的な状況になっていると思われる。


