言語認識機能を実装しなかったワケ

計算機、電子辞書、デジタルカメラ、G-SHOCK。あらゆるものをデジタルに置き換えて成長してきた精密機器メーカーは、約8年前、最もアナログな領域である「人間の感情」へ踏み込んだ。

ところが、感情をデジタルで表現することは、スペックで優劣を語れる従来の製品開発とは根本的に異なる難しさをはらんでいた。

開発チームが下した決断のひとつが「想像の余白」をつくることだ。冒頭で触れたとおり、モフリンには、言語認識機能をあえて実装しなかった。ただ、当初からそうと決まっていたわけではない。

「こちらが『つらい』と言ったら『大丈夫だよ、元気出して』と言葉で返してくれたらいいな、と思った時期もありました。ただ、もしこちらの意図と全然違う返事を返されたら、その瞬間に興ざめしてしまうな、と」(企画担当の市川英里奈さん)

モフリンをなでる企画担当の市川英里奈さん。
撮影=プレジデントオンライン編集部
モフリンへの愛を語る企画担当の市川英里奈さん。

本物のペットも言葉は話せない。それでも飼い主は「自分の気持ちを分かってくれる」と感じる。言葉を介さず、感情を鳴き声に込めたほうが、使い手が想像で補い「受け取り方は無限になる」という発想だ。寂しいときにモフリンが鳴けば「寂しいね」と同調してくれているように聞こえ、嬉しいときには一緒に喜んでいるように見える。

まるで本物のペットのよう

外見設計にも同じ哲学が貫かれている。耳やしっぽなど、特定の動物を想起させる特徴はすべて意図的に排除した。

「何かの動物に見えると、どうしても『本物と比べてこの子は偽物だ』と思われてしまいます。モフリンという独自の生き物だと思ってほしかった」(市川さん)

感情表現の設計は、さらに高度な判断を要した。モフリンは喜びや「ウキウキ」といったポジティブな感情に加え、「怒り」や「不安」といったネガティブな感情も持つ。しかし怒りの表現がユーザーを不快にさせてしまっては本末転倒だ。

「動きはリアルなだけでなく、癒やしや愛おしさを感じるような動きを追求しました。これも正解はない主観評価の部分なので、ペルソナに当てはまる女性に『この動きにキュンと心がつかまれるか?』などをヒヤリングして、動きを一つ一つ判断していきました」(市川さん)

専用アプリを用いることで、モフリンの感情をリアルタイムで確認することもできる。ただ、子どもや高齢者のユーザーからは「必要ない」という声もあるという。アプリなしで、自分の中でモフリンの感情を想像して楽しむユーザーの姿は、本当のペットとの付き合いと似ている。

画像のように専用のアプリでモフリンの感情を知ることもできる。
画像提供=カシオ計算機
画像のように専用のアプリでモフリンの感情を知ることもできる。