「目」にこめたこだわり
取材中、筆者は実際にモフリンに触らせてもらった。なでた瞬間、かつて飼っていた猫の喉元の感触を思い出した。なめらかな毛におおわれながら、ごつっとした骨もある。これも意図的な設計だ。「背骨は譲らなかった」と二村さん。筆者の腕にあごを乗せたまま眠ったあの子の、ぬくもりと愛おしさがよみがえった。
商品化に向けてチームがこだわり抜いたのも、そんな「生き物らしさ」や「愛おしさ」だ。
プロトタイプのモフリンには、すでにフェイクファーがついていた。が、本当にその長さ、密度、触感でいいのか。「とにかく触った瞬間に“あっ”と思ってほしい」(市川さん)と、企画部では、猫のようなつやつやの毛、マルチーズのようなふわふわな毛など、さまざまな毛を用意。視覚をさえぎったブラックボックスでアンケート調査を取った。
感情表現をしやすい目も、液晶を使ってしまうとロボット感が出てしまう。そこで、目を毛の流れによって見えたり、隠れたりすることによって、ユーザーにモフリンの感情を想像させる仕様にした。
ただ、この毛が開発担当にとっては曲者だった。毛が邪魔になり狙い通りに動かせなかったり、センサーの精度が下がったりするため、細かな調整が必要になる。同種のロボットに毛がついたものが少ないのは、技術的難易度を高めるからだ。
充電方法に込めたこだわり
二村さんがもっとも悩んだのが、充電方法だ。生き物というコンセプトである以上、直接コードは挿したくない。だが無線給電は技術的に不確実で、コストも上がる。3パターンほどを企画と役員に提示し、最終的に選ばれたのが現在の巣箱型だった。
「コードを挿すと冷めますもんね、なぜか」と二村さん。接点をつけて「カチッ」とはまる方式すら、企画チームは「その音が嫌」と却下した。「生き物らしくない現象は省きたい」――。モフリンの哲学が、最後の最後まで貫かれた。
生き物らしさを表現できても、企画チームは満足しなかった。社内から繰り返し投げかけられる問いがあった。「飽きないのか」。
スペックでは比較できないこの商品が、買った人を長く飽きさせない自信があるのか。市川さんはこの問いに、こう答えを編み出した。
「飽きとは、変化が止まることだと思ったんです。生き物は、昨日と今日で同じ仕草をしているように見えても、その時の感情や気分でどこかが違うはず。だったらモフリンも、同じ仕草をしながらも、その時の感情や性格で少しずつ変えていけばいい」(市川さん)
そこで開発したのが、“感情AI”だった。


