シンプルな動きに絶妙な仕掛け

「多機能にすればするほど、大型で高価になってしまったんです。一般消費者向け商品として発売したいという思いもあったので、それは違うな、と。そこから試行錯誤をして、必要な部分のみに“そぎ落とす”作業をしていったんです」(二村さん)

通常ロボットは、人間で言えば関節に当たる「軸」の数が多いほど複雑な動きが可能だ。ただ軸を増やすほど構造は複雑になり、大型化してしまう。しかし、ここで1957年に世界初の小型純電気式計算機「14-A」を開発以降、“小型化”に磨きをかけてきた同社の技術が光る。

駆動部を2軸まで減らし、首の動きのみに限定して手のひらサイズを実現した。動きは制限されたが、長年プリンター開発に携わってきた二村さんにとって、細やかなモーター制御はお手のもの。「首傾げ」や「うなずき」といったシンプルな動きにバリエーションを付け、生まれたての小動物のような動きを表現することに成功した。

大きさは18センチ、胴回りは13×9センチと、本物の小動物のよう。
撮影=プレジデントオンライン編集部
大きさは18センチ、胴回りは13×9センチと、本物の小動物のよう。

1年ほどでモフリンの原型が完成し、社内の技術展示会で発表した。初めて見るロボットへの反応は両極端だった。目を留めない人は本当に目もくれない。一方で「これは何だ」と前のめりになる人もいる。

「刺さる人には刺さる。これはいけるかもしれない」。二村さんがヒットのニオイを嗅ぎとった瞬間だった。同時に、機能を付加するのではなく“そぎ落とす”という、この後のモフリン開発における方向性が決定づけられた瞬間でもあった。

商品ではなく「相棒」

一方、企画部では、別の角度からモフリンの元となる構想が進んでいた。

2012年、企画担当の市川英里奈さんは「女性に特化した商品をつくってほしい。あなた自身が欲しいと思う商品やサービスを考えて」と指示を受けた。当時、市川さんは20代後半。恋愛、結婚、これからのキャリアをどうするか、悩みや不安が尽きない時期だった。

「商品やサービスで悩みを解決しても、また新しい悩みが出てくるんです。それをその都度、解決するための新しいサービスを用意しないといけないのかと考えると、それは違うんじゃないか、と。それよりも、そばで寄り添って元気づけてくれる存在がいれば、どんな悩みも長くサポートできるんじゃないか、と考えたんです」(市川さん)

モフリンをなでる企画担当の市川英里奈さん。
撮影=プレジデントオンライン編集部
モフリンをなでる企画担当の市川英里奈さん。

イメージしたのは、日本や海外のアニメ。アニメ主人公には小動物の“相棒”がつきものだ。

「人間ではないけれど、生き物よりも意思疎通ができて、自分に共感してくれる。そういう存在が昔から求められているのかもしれないと気づいたんです」(市川さん)

人の心に寄り添う相棒を作ろう。そうコンセプトが決まった。そして2017年ごろ、二村さんが企画部にモフリンのプロトタイプを見せたことで、企画部と開発部が合流し、商品化に向けた本格的な検討がスタートした。ただ、ここから店頭に並ぶまでに、さらに7年。「ロボット」を「相棒」へと変えるための作業が続くことになる。