人生で初めての「反撃」ができた

カウンセリングを経て、彼女は相手の顔色ばかり気にしてご機嫌を取り続ける生き方を理解していきました。すると「バカバカしくなって」しまいました。

「いつも接待している。なんの見返りもないのに。すっごく損な生き方!」と、カウンセリング中に自分への怒りを露わにしたのです。もしかしたら、これは人生への怒りかもしれません。母親の顔色を気にして、ずっと機嫌を取って、怯えて、何かにつけて迎合してきた生き方に対してです。

怒りは破壊するエネルギーを持ちます。こうして古い生き方が壊れます。すると抱えていた愛着の問題も効力を失ってしまいます。

ある日のことです。いつもの通りに話し続け、そのついでに適当な仕事を振ってくる上司に彼女は、

「ちょっと、いまの仕事を終わらせてからでもいいですか!」

と、言えました。

上司は「あ、そっか。ご、ごめん」と小声で言い少々の間、おとなしくなったそうです。人生で初めての反撃です。不思議なことに、彼女がこうやって自己主張できることがわかると、上司はもう前のように長々と話しかけ続けることはなくなったのでした。仕事を振る際には、相談してくるようになったとのことです(当たり前のことなのですが)。

それからまた後日、彼女は噛み締めるように言いました。

「いままで、私は人から搾取されていると感じることがありました。だけど、相手を図に乗せているのは自分だと気づきました。何をやってんだ私は! って、猛烈に腹が立ちました。不思議と、相手にではなく自分に腹が立ちました」

愛着スタイルという人間関係の雛形は、ある意味では置かれた環境を生き抜くため必要に迫られておのずと身に付けてきたものです。だから結局は、自分に腹が立つのでしょう。

これも筆者の経験ですが、愛着に関する問題の解決は、こうした経過が共通しているように感じます。

オフィス街を歩くビジネスパーソン
写真=iStock.com/Zoey106
※写真はイメージです

年下としか関われない

ところで、この上司も同様に愛着の問題を抱えていることにお気づきだったでしょうか。

I子さんと出方こそ違いますが、根っこは同じです。

親にかまってもらう体験が乏しく、愛着欲求が枯渇したまま年齢を重ねてきたのでしょう。すると、大人になってから立場の下の「従ってくれそうな(構ってくれそうな)」人を捕まえて、自分のそれを満たそうとしてしまうことがあります。これは職場に限らず、友人関係などにも現れます。いつも年下の人としか関わっていない(関われない)などです。

たいてい、年長者からのハラスメント問題はこうして起こります。

従わせる側と従ってしまう側とのペアリングによるのですが、従わせている側は自分がそうさせていることに気づきにくいのが難しいところです。自分が求めている人間関係にピタリとはまり込んでしまっているので、違和感を感じられないのが理由です。

どこかの首長がパワハラによって辞職に追い込まれた際に「激励のつもりだった」「親しみを込めたつもりだった」といった釈明をよく耳にしませんか。

枯渇した愛着欲求を充足したい気持ちは驚くほど強く、際限なく求め続けてしまうものなのです。この求めに応じてくれそうな人が現れたら、容易く手放すことはできません。

何が言いたいのかというと、愛着の問題というのは私たちの思っている以上に根深いのです。いささか不謹慎ですが、この問題を理解できるようになってくると、ハラスメントの構造も見えてきて、実に興味深いものがあります。