“愛着スタイル”は幼少期から変わらない
「そんなの無視すればいいのでは?」と感じる読者もいるかもしれません。
しかし愛着の問題が重たいと、そうはできません。
相手に合わせてしまうという生き方の癖が出来上がってしまっているのが理由で、幼少期からの親子関係の質が少なからず影響を与えているのは確かだからです。
愛着に関する理論はJ・ボウルビイ(1907-1990)が有名です。彼は2歳頃までに獲得した愛着スタイル(人間関係の雛形)は、一生涯にわたって大きく変わることはないと説きました。
家族問題や虐待問題に端を発する心の病やそれに類する悩みに接してきた、これまでの筆者の臨床経験からですが、人間関係に悩んでいる人は親との間で愛着の問題を抱えていることが多いようです。甘えられなかった、褒められなかった、頼ることができなかった、などです。
親から気持ちを汲んでもらう経験が乏しいと、自分の感情がこれで正しいのかの自信が育ちません。なので、社会の中での自己表現も上手に育たず、相手に従うだけの関係になってしまうか、あるいは従わせるだけの関係になってしまうかの、どちらにしてもやや一方的な関係になりやすくなります。
I子さんはまさしく前者で「相手に従うだけの関係」になってしまって、上司の態度に合わせて忍従しているのでしょう。
母親から受けた“心の傷”
後に明らかになるのですが、I子さんは母親から虐待を受けていました。感情のコントロールが利かない母親に、首を絞められて殺されそうになったことがあったのです。
それも怖かったのですが、彼女がもっと怖かったのは、その母親が数分後にはケロッとして、テレビを観ながら笑っていることだと話しました。
母親に意見を言うと否定されるか、怒られるだけ。一番身近な人間が「怖い人」だったので、相手に迎合する生き方が形成されてしまったのです。
こうした幼少期の心の傷が、大人になったときの対人関係の悩みとして現れることがあります。逆を言うと、大人になってからの対人関係の悩みは、こうした幼少期からの心の傷にまで遡る必要があるとも考えられるのです。

