EU離脱後も国民の生活は楽にならない
これが明確に露呈したのは、2008年の金融危機以降だ。英財政研究所は、イギリスでは金融危機以降、所得と生産性の伸びが歴史的に弱く、低投資、政策ミス、政治的不安定、ブレグジット(イギリスEU離脱)が成長を妨げてきたと分析している。
ブレグジットも、この文脈で見るべきである。EU離脱は、主権回復の試みだった。しかし、主権を取り戻しても、成長力が戻るわけではなかった。英国予算責任局(OBR)は、EU離脱によって英国の輸出入量は長期的にEU残留時より15%低くなり、その結果として潜在生産性が4%低下するという前提を置いている。
名目賃金の伸びは日本より高いものの、2022年には物価上昇率が最高11.1%に達するほどの高インフレに見舞われ、実質賃金は一時マイナスに転じた。
ブレグジットを主導したボリス・ジョンソン首相は、コロナ禍での「パーティーゲート(Partygate)」などの不祥事で党内支持を失い、2022年に辞任した。これは「ブレグジットによってイギリスを再生する」という物語の挫折だった。その後も「サッチャリズムの継続」によって立て直しに失敗し続けた。
その後を継いだ労働党のスターマー政権は、サッチャリズムで疲弊したイギリスを「癒やす」政権として誕生した。だが、保守党の14年政権が積み残した低成長、生産性停滞、財政制約、移民問題、公共サービスの劣化などについて根本的に手を付ける様子はなく、さらなる迷走を続けている。
ロンドンよりアメリカを選ぶ成長企業
イギリス金融の中枢にして、ヨーロッパ最大の金融ハブであるシティも、ブレグジットによって輝きを失いつつある。もちろん、国際金融インフラとしてのロンドンはいまだに圧倒的に強い。Global Financial Centres Index 38(2025年9月発表)では、ニューヨークが首位、ロンドンが2位、香港が3位、シンガポールが4位であり、世界金融センターの最上位圏にいる。
シティ・オブ・ロンドンの資料によれば、イギリスは2024年も金融サービスの純輸出で世界最大級の地位を維持し、金融サービス輸出は1227億ポンド、金融サービスの貿易黒字は926億ポンドに達している。外国為替、保険、国際銀行業務、法務、金融サービス輸出では、ロンドンは今も世界の中枢である。
だが、株式市場としてのロンドンは明らかに勢いを失い、ロイターによれば、有望なベンチャーがロンドン上場を取りやめたり、国際企業が主たる上場先を海外へ移すなどの事例が増えているという。たとえば、イギリス発のフィンテック企業ワイズが、主たる上場先をアメリカへ移す方針である。

