多文化主義で「イスラム化」が加速

イギリスは経済力と軍事力の衰退とともに、社会的な結束力も失いつつある。その象徴が「イギリスのイスラム化」だ。これは、イスラム教徒が増えたこと自体というより、イギリス政府がこれまでの伝統を軽んじて「多文化主義」への希求で国家をまとめることを柱にしている点だ。

2021年国勢調査では、イングランドとウェールズでキリスト教徒は46.2%となり、初めて人口の半数を下回る一方、イスラム教徒は390万人と人口比6.5%にまで増えている。年齢構成を見ると、キリスト教徒の中央値年齢は51歳、イスラム教徒は27歳であり、若い層に増えている。

「シャリア法」をめぐる論争もイギリス社会を揺るがした。2008年には当時のカンタベリー大主教ローワン・ウィリアムズが、イギリスでイスラム法の一部を認めることは「避けがたい」と受け取られる発言をし、大きな論争になった。もっとも、イギリス政府が設置した第三者評価では、シャリア評議会には民事法上の法的地位も拘束力もなく、国内法が優越すると明確に整理されているが。

キリスト教から派生した穏健なイギリス国教によってまとまっていたイギリス社会の内側から、イスラム法の圧力が生じている。このことは、多くのイギリス国民に静かな反発を生んでおり、「右派ポピュリスト政党」と称されるリフォームUKの躍進には、この圧力の存在があると考えられる。

1年間で非EU圏移民が38万人流入

ブレグジットも、このことを増長する役目を担っている。ブレグジット運動では移民問題が大きな争点となったが、そこでは2016年にトルコがEUに加盟するかのような訴えが離脱派の宣伝で使われ、ムスリム移民拡大への不安を刺激したことが大きかった。

ヒジャブをかぶった女性たち
写真=iStock.com/David Taljat
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ところが、ブレグジットが実施されると、イギリスからはEU市民が流出し、非EU圏からの移民が相対的に大きくなっていく。イギリス国家統計局(ONS)によれば、2025年6月までの1年間で、非EU圏国籍者の純移民はプラス38万3000人だった一方、EU圏国籍者の純移民はマイナス7万人だった。

ブレグジットは移民を減らすための政治運動でもあったが、実際には東欧を中心とするキリスト教系のEU移民を減らし、非EU圏からの移民への依存を高める結果になった。イギリス人が問題視した欧州からの移民は減ったが、結果的にムスリム移民を増大させて、イギリス社会の宗教・文化的多様化はむしろ進んだ。