夜は商談が飛び交う「サロン」に一変

ランチで訪れたときにはごく普通の中華料理店という感じだったが、夜は多くの中国人が商売の話をしており、思わず聞き耳を立てたくなるほど。私自身、この店で偶然出会った中国人とSNSでつながるなど、人脈が広がった。まさにそうしたサロンのような利用の仕方をしてもらうことが鐘さんの狙いでもあるようだ。

私の中国人の友人、陸さんがこの店を訪れたときは、鐘さんとの商談を望む人が列をなし、「自分が店内にいたわずかな間に十数人の中国人が鐘さんと話をしようと店を訪れていた」という。中国ではレストランの奥のVIPルームでこっそり仕事の打ち合わせをすることがよくあるが、日本でも同じことを実践しているようだ。

同じビルの1階には、25年の流行語大賞にノミネートされた麻辣湯マーラータンを提供する「一番 麻辣烫」、2階には中華風串焼きを提供する「一焼」がある。いずれも鐘さんの経営なので、2階に3階の料理を運んでもらうことも可能だ。

1つ40万円もする「究極の中華料理」

鐘さんに、在日中国人のSNSでよく見かける「熊の手」について聞いてみた。

日本では北海道や東北など一部の地方で熊肉を食べるが、中国では「熊肉」よりも「熊の手=熊掌ションジャン」の料理が有名だ。以前は満漢全席のような豪華コースの一品や祝い事の特別料理として食べることがあった。一説には「左手が最上級」とされ、儒学思想家の孟子も好物だったというが、鐘さんによると、現在中国で熊掌を食べることは禁止されている。

熊の手とアワビの煮込み料理
写真=創作アジアン 琥珀
日本で食べられる「熊の手」の料理。中国人富裕層の間で需要があるという

そのため、わざわざ「合法的に熊の手が食べられる」日本に来て食べてみたいという中国人や、「特別な日」のメイン料理として在日中国人から予約が入る。調理法は主に醤油や香辛料などを使った煮込み料理だ。よく洗って十分に下処理を施して臭みを取り、鋭い爪がやわらかくなるまで長時間煮込むため、手間暇がかかる。

同じ池袋にある広東料理店「江記ジアンジー 香港打邊爐シアンガンダービエンルー」も店のSNSに熊の手料理の写真や動画をよく投稿している。問い合わせてみると「数日前の予約が必要ですが、入荷の保証はできません。価格は時価でサイズにもよります。1つ27万~28万円くらい。サイズが大きく、上等なものは40万円になることもあります」との回答だった。