東京の街とタワーマンション
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「いい教育を受けさせたい……!」その親心が、家計を直撃している。各種の教育無償化政策にもかかわらず、なぜ教育費の上昇は止まらないのか。識者が挙げる2つの理由とは。加速する人手不足とインフレの未来で、日本はどうなるか――元日銀・気鋭のエコノミスト、河田皓史氏の新刊『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新書)から一部を抜粋してお届けする。

「子を持つことのコスト」の増大

結婚に付随する大きな価値は「子を持つことができる」ということである。婚外子が少ない日本においては、結婚(夫婦生活)そのものにそれほど魅力を感じなくても、子を持ちたいがゆえに結婚する人もいるだろう。

ただ、よく指摘されている通り、日本の教育費は長期的に増加トレンドが続いており、子を持つことの「コスト」は年々重くなっている。

一方、核家族化および単身世帯化の進行に伴い、親世代を含む二世帯同居世帯の割合は長期的に低下傾向を辿っており、老後に子に日常的に面倒を見てもらうことは昔に比べて期待しづらくなっている。

つまり、子がいてもいなくても最終的に外部の介護サービスを利用する可能性が高いという点で、子を持つことの「ベネフィット」が低下している側面はある。

「子一人当たり3000万円」も

全体として、子を持つことのコストが増加する一方でベネフィットが低下しており、子を持つことの経済的価値は昔に比べて低下しているように思える。

もちろん、子を持つことを経済的に評価すること自体がナンセンスだという考え方はあるだろうし、それはそれで一つの正論だとは思うが、あくまで事実確認として子を持つことのコストとベネフィットについて経済的観点から確認してみたい。

まず子を持つことの「コスト」のうち教育費について確認しよう。前述の通り、子一人当たりの教育費は趨勢的に増加している。

幼稚園から高校まで全て公立の場合は、2012年に約500万円だったところから、2023年は約600万円と100万円程度増加している。

幼稚園から高校まで全て私立の場合は、1700万円弱から2000万円弱へと、300万円程度増加している。

2019年10月に「幼児教育無償化」が開始されたため、幼稚園期のコストは10年前に比べて減少しているが、それ以外の時期(小学校〜高校)のコストが増加しているため、全体として高校卒業までのコストは増加した姿である。

また、大学や大学院に進学する場合にはこれに大学・大学院の学費等が上乗せされるため、「子一人当たり3000万円」という相場観も決して大げさに言っているわけではないことがわかる。

塾の価格が上昇している

前述の「幼児教育無償化」のほか、2010年には「高校無償化」、2020年には「大学無償化」がそれぞれ実施され、学校授業料が引き下げられてきたにもかかわらず、なぜ教育費の増加が止まっていないのだろうか。

この背景には、①親が子に受けさせる教育サービスが増加していること、②補習教育の価格が上昇していることがあるとみられる。

①について、例えば中学受験に向けた通塾は、かつては小学3〜4年生からが多かったが、最近は小学1〜2年生からが増えていると言われる。実際、学習塾の売上は少子化にもかかわらず特段減っていない。

つまり、子一人当たりの売上高が増加しているわけであり、そこには通塾の早期化も影響していると考えられる。こうした堅調な需要が、学習塾の価格設定スタンスを強気にしている面もあるとみられる。

授業料とは逆に学習塾などの補習教育の価格は上昇トレンドを持っており、特に中学受験が盛んな東京では大きく価格が上昇している。

※総務省のデータによると、東京23区の補習教育の価格は、2010年対比で3割以上上昇している

「子に良い教育を受けさせたい」というのは親として自然な人情であり、これだけ「節約志向」が指摘される時代にあっても、教育関連の支出は「別腹」とばかりに伸び続けている。

東京では「億ション」が当たり前

また、住宅価格の高騰も見逃せない。国土交通省のデータによると、最近の住宅価格は2010年対比で4割ほど上昇している。

マンション価格に限れば2010年の2倍以上になっており、東京においては「億ション」は当たり前の時代になっている。

言うまでもなく、こうした住宅価格の高騰は家計(特に住宅購入の中心となる30代前後の層)にとって大きな負担となっている。近年の賃上げ等により可処分所得はある程度増えているものの、こうした住宅価格の上昇ペースには到底及ばないため、家計の負担は高まる一方である。

結婚し子を複数持つと、それだけ広い家が必要になるため、その分だけ住宅購入負担はさらに重くなる。

(河田皓史『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新書)では、「結婚の経済的意味」「結婚の魅力が低下した理由」「“子を持つことのコスト”の増大」など、非婚化社会の背景について分析している)

河田皓史『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新書)
河田皓史『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新書)
河田皓史(かわた・ひろし)/みずほ総合研究所調査部 チーフグローバルエコノミスト(みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称)。1987年生まれ。岩手県出身。2010年東京大学経済学部卒業。2015年デューク大学大学院経済学修士課程修了(経済学修士)。2010年日本銀行入行。調査統計局や企画局などで経済金融調査や金融政策立案に従事。2023年11月当社入社。日本経済や中国・アジア経済の担当を経て、2025年7月より現職。専門は日本経済、金融政策。日本経済関連(金融政策、物価・賃金、景気循環、経済成長など)を中心にレポート執筆、文字メディア寄稿、映像メディア出演実績多数。
当記事は「AERA DIGITAL」からの転載記事です。AERA DIGITALは『AERA』『週刊朝日』に掲載された話題を、分かりやすくまとめた記事をメインコンテンツにしています。元記事はこちら
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