リーダーとは意味をつくる存在
第三に「行動」の段階では、合意形成を待つのではなく、小さな実験をリーダーとメンバーが協力して実行します。そして、その結果を再び対話によって振り返り、「どの解釈が現実と合致していたか」「何を修正すべきか」をともに検討します。
ワイクの理論の中核には「行為が理解を生み出す(Enactment)」という考えがあります。状況は受動的に観察するだけでは捉えられず、行動によって初めてその輪郭が浮かび上がります。行動と学習を結びつけるこの対話の繰り返しによって、組織全体のコンテキスト理解は徐々に揃っていきます。
観察・解釈・行動の3三つのステップは、単なる作業手順ではなく、リーダーとメンバーが対話を通じて共通の物語を育てるための循環です。この循環を意識的に回し続けることが、組織におけるコンテキストの共有を可能にするのです。
言い換えれば、リーダーとは単なる意思決定者ではなく、「意味を作る存在=Sence Maker」であるべきだ、ということです。
なぜ文学を読む必要があるのか
人は、その人なりの物語を生きており、周囲の人々の言葉や行動だけでなく、場合によっては自分の言葉や行動すら、コンテキストに応じてあとから意味づけします。したがって、コンテキストを理解し、操作しようとするならば、他者が、どのようにして「行為や言葉の連鎖」から意味づけして物語を生成するかのパターンを、どれだけ知っているかが重要な素養となります。
だからこそ「文学」は人生を生きる上で大きな武器になるのです。よく「文学など架空の物語で、現実には役に立たない」といった趣旨のことを言う人がいますが、ここまでの説明を読めば、この指摘がいかに人間洞察に欠けた底の浅いものか、よくわかると思います。
私たちが「現実の世界」と考えているのは、私たちによって意味づけされた、私たち個人の「現実という名の物語」なのです。そしてリーダーは、周囲の人々にとっての「現実という物語」を生み出し、その物語の中での当事者の役割を意味づけることが求められます。
いうなれば、文学とは、単なる娯楽や空想ではなく、人間が他者を理解し、自分の生きる世界を意味づけるための一種の「思考実験の場」だということです。小説を読むとき、私たちは登場人物の行為や言葉の背後にある感情や動機を想像し、無意識に「もし自分ならどう感じるか」「この人物はなぜこのような行動をするのか」と、自分なりに物語を補完しています。

