「約498万円」が浮き、「完済3年前倒し」になるが…

500万円の一部繰り上げに対して約498万円の利息軽減効果が見込め、完済時期も約3年前倒しできます。今後の金利上昇リスクにさらされる期間を減らせるため、一見すると合理的な選択に見えます。

しかし、これだけで繰り上げ返済にゴーサインを出してしまうのは黄色信号です。繰り上げ返済の裏で失われるものがあるためです。

家計を全体で見るには、資産と負債を並べたバランスシートが役立ちます。家計防衛の視点では、最終的にカギを握るのは現金化できる資産です。繰り上げ返済をすると、住宅ローンの元本は減りますが、その半面、手元の資金は大きく減少します。

以下の図表2をご覧ください。冒頭のAさんの例では、純資産額は変わらない一方、繰り上げ返済をした時点で現預金は500万円減ります。期間短縮型の場合、将来の返済回数を少なくすることで支払利息を減らすかたちとなります。住宅ローンの利息軽減額は約498万円ですが、すべてを回収できるのは28年後です。利息の軽減に先立って、現預金が失われる構図となります。

【図表2】繰上げ返済前後の家計の「資産」「負債」
繰り上げ返済をした前後の家計のバランスシート(図表=筆者作成)

その結果、例えば療養や障害、死亡、災害や離婚といった「万が一」に直面した時に、家計の自由や選択肢を大きく減らす可能性があります。気づいたときには時すでに遅し。家計収支や生活設計に大きな見直しを強いられるかもしれません。

“倒れたら”1年もたない、ギリギリの家計に

ここ数年は、物価も上がっています。物価上昇下で生活水準を維持するためには、黒字家計であることが最低条件です。

もし赤字家計に陥れば、蓄えの取り崩しが発生するでしょう。その時、充分な蓄えがなければクレジットカードやカードローンに頼らざるをえなくなってしまうかもしれません。

例えば、Aさんファミリーのような場合、家計収支は年272万円の黒字でしたが、変動金利型の住宅ローン返済にくわえ、今年から末子の小学校入学を機に、学童費用やおけいこ費用といった新たな支出が見込まれます。また、来年からは第一子の中学受験対策も視野にいれれば、塾へ通わせることも現実的にあるでしょう。

支出が増える中、もし繰り上げ返済に500万円つかってしまったら、残る預貯金は200万円。もし夫婦どちらかが病気や事故、失業などで収入が大きく減れば、一気に家計収支は悪化し、預貯金だけでは1年もたない可能性があります。物価上昇とともに支出増の圧力がさらに威力を増す中、運用資産の取り崩しが発生し、資産価値の減少とともに生活設計の見通しを急速に悪化させるおそれがあります。