“身内”からの反発

実は、壁は参院だけではない。圧倒的多数を持つはずの衆院にも存在する。

高市政権が後半国会の重要法案の一つとしているのが、再審制度を見直す刑事訴訟法の改正案だ。法務省の当初案で再審開始決定に対する検察官の不服申し立てを禁止する規定がなかったことに党の会議で弁護士出身の稲田朋美氏らが反発。テレビカメラの前で、激しく抗議したことから注目を集めた。自民党内でも弁護士出身の議員らを中心に異論が強く、法案の再検討が続けられ、党の了承が得られない状態が続いている。

首相の答弁が求められる「重要広範議案」と呼ばれる4法案の一つだが、提出のメドが立たない状態となり、後半国会の審議日程に大きく影響する可能性も出てきた。

野党側の反発ならまだしも与党内の反発で法案提出が遅れるとは、全くの想定外だったようだ。高市首相がどこまで状況を認識していたかは分からないが、政府与党内の根回しができていなかったことは明らかであり、最終的には首相官邸の調整力不足を露呈した格好だ。

トップダウンで指導力を発揮しようと思えば、党内外の情報が官邸に集まり、それを基に、最終的な決定をして、また各所に指示を下ろしていかなければならない。そのためには、官僚や党の役職者との意思疎通が必須だ。

しかし、全てを首相が聞いて判断するわけにはいかない。イエスマンだけではない、時には苦言も言えるような側近が必要だ。だが、官邸の奥深くに引きこもって、メールや電話だけで指示を出しても、それを受け取る側は、真意を測りかねることも少なくない。

ある与党関係者は、「コミュニケーションが取れていないわけではないが、とにかく首相の肉声が聞けない。特にリスクを取るような話では、それでは怖くてやっていられない」と現状を語った。

側近を斬る

高市支持の議員たちの間で静かに波紋を広げたのは、古屋圭司選対委員長の「更迭」だ。歴史的な大勝を飾った選挙の実務責任者である。論功行賞からすれば続投が当然だし、重要閣僚などへの起用があっても不思議ではない。

しかし、高市首相は古屋氏を選対委員長から外し、衆議院の憲法調査会長に交代させた。

古屋氏は、高市首相の側近中の側近として知られる。憲法審査会の会長というポストは微妙だ。古屋氏は、首相本人や官房長官の木原稔氏から「これは更迭ではないからと電話で説明を受けた」と周囲に話しているが、その一方で、人事の後暫くは高市首相本人が電話に出てくれず、真意が分からなかったと不安を漏らしたという証言もある。

衆院選で比例名簿が足りず、自民党の枠を14人も他党に回したことに高市首相が不満だったからだという見方も広がっているが、いずれにしても「説明しない女」であることは違いない。